NHK大河「いだてん」脚本・宮藤官九郎さん 五輪での挫折 人間味感じた【私の中の金栗さん②】

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くどう・かんくろう 1970年、宮城県生まれ。脚本家、映画監督、俳優、ミュージシャンなど多方面で活躍。映画「GO」で日本アカデミー賞最優秀脚本賞。NHK作品は連続テレビ小説「あまちゃん」以来2作目。

 NHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺[ばなし]~」でオリジナルの脚本に挑んだのが、多くのヒット作で知られる宮藤官九郎さん(48)。主人公の金栗四三と田畑政治の生き様を軸に、史実をベースにした「庶民の五輪物語」を描く。

 五輪と日本人をテーマにしたドラマの企画に向け、さまざまな人物を調べる中で、最初のマラソンランナー金栗に最もシンパシーを感じたという。

 「僕は勝ち進んで上り詰めた人より、本番に弱いとか、目指した事ができなかった人とかに親近感を覚える。金栗さんには『走れ二十五万キロ』(熊本日日新聞社)という本があって、みんなの期待を背負ってストックホルムを走ったが、途中で気を失って倒れたとあった。そんなところに人間味を感じ、興味を持った」

 実在した人物で脚本を作るのは初めて。金栗を理解するために熊本でゆかりの地を訪ね、日記や手紙にも目を通した。

 「毎朝水かぶりをするとか、結婚したのにずっと別居とか、面白いエピソードが多くてネタに困らない。愛嬌[あいきょう]があり、周囲に好かれる人柄だったんだと思う。思いつきで日本中を走るような型破りな行動も、かわいいから許されるみたいな。実際に娘さんたちに話を聞き、生活した場所などを見た経験も自分のよりどころになっている」

 自身の過去作と異なり、史実との整合性を考えながらの作業。金栗と田畑、落語家の古今亭志ん生の3人を巧みに絡ませ、半世紀の歴史を紡いでいく。

 「やりたかったのは、歴史を動かした殿様や将軍の話より、庶民の物語。語り部に志ん生さんが登場し、下町の空気が漂う。合戦ではなくスポーツで見せ場をつくる。時代の中で庶民が何を感じ、どう生きたか。それが僕にできる大河ドラマかな」

 戦前戦後をまたぎながら、時代の転換点となった戦争を深刻すぎずに描きたいという。

 「歴史を振り返って見るわれわれと、その時代を生きた人々とでは立ち位置が違う。悲劇でくくられがちな戦争の中にも、日常の生活や笑いがあった。だからといって戦争を軽く見るのではなく、深いテーマのある物語にしたい」

 初参加の1912年ストックホルムから戦後復興の象徴となった64年東京まで、五輪は日本の時代状況を映す鏡でもあった。

 「五輪に参加したり、東京に招致したりすることに、日本人はピュアなあこがれを持っていた。はすに構えて見るムードもあるが、当時の人々にとって五輪は純粋に楽しいものだった。それを知ってもらい、2020年を迎えられたらいいなと思う」(蔵原博康)

(2019年1月13日付 熊本日日新聞朝刊掲載)