「ゴジラ」「日本沈没」手掛けた職人の技術 一冊の本に

 「ゴジラ」シリーズなどの特撮映画を手掛けた職人の知恵や工夫が、1冊の本になった。著者は東宝系列会社の旧特殊美術部、通称「特美」に長年勤めてきた長沼孝さん(71)=横浜市南区。コンピューターグラフィックス(CG)がない時代、精巧なミニチュア模型などで特撮を下支えしてきた映画人の熱がいっぱいに詰まっている。

 長沼さんは、新潟県生まれ。絵描きを目指し都内の美術学校に通っていた1972年、最初はアルバイトとして世田谷区の東宝スタジオ内にあった旧東宝美術(現東宝映像美術)で働き始めた。

 「日本沈没」(73年)や「連合艦隊」(81年)「ゴジラVSビオランテ」(89年)など多数の作品で模型製作やデザインなどを担当。その傍らで、写真や撮影で使う模型のサイズなどの記録を取り続けていた。

 2018年12月に刊行した自著「東宝特殊美術部の仕事 映画・テレビ・CF編」(新紀元社)に、収めた写真と図版675枚も当時のもの。特撮の神様と称される故円谷英二を支えたスタッフの多くが亡くなる中、記録として後世に残したいとの思いが出版につながったという。

 著書は、綿で作った雲や寒天で仕上げた海など、どうすれば実際の景色に似させられるかを追求する特美の仕事ぶりを伝える。

 「写るかどうかというより、美術班のこだわり」と記された通り、緻密に描かれた地下鉄車両模型の車内広告、立て看板の模型などスクリーンで見えるか分からない部分まで作り込む姿を紹介した。

 ほかにも、74年公開のパニック映画「ノストラダムスの大予言」では、干上がる沼沢地を表現するため、沼のセットの底に鉄板を敷いて下から加熱、大地がひび割れるさまを撮影した。

 スタッフが汗だくになって撮ったシーンだが、撮影所の第7ステージは撮影時の火災で全焼。このエピソードに触れ、「消防署からこっぴどくしかられたイメージの強い作品」と振り返っている。

 また「連合艦隊」で作られた全長13メートルの戦艦大和の模型を、大勢のスタッフが運ぶ様子や、プールに浮かべて撮影する風景も記録している。

 一方、CG全盛の時代、特撮を文化として伝えていこうとの声は大きい。発刊に寄せて、俳優の石坂浩二さん(77)は「スタッフの知恵と努力が将来に継承されていけば素晴らしい」と記す。「日本沈没」の製作などに携わった特技監督の中野昭慶さん(83)も「スタッフ一人一人がこれだけいい仕事をしていることを多くの人に知ってもらい、日本の映画文化を理解してもらいたい」と力を込める。

 長沼さんは特美で過ごした時代について「根本にあるのは、映画の仕事が好きという思い。みんな好きだから続けてこられた」と振り返る。「(映画界の)若手が昔のミニチュアワークも味があっていいな、と思ってくれたらうれしい」とも話している。

 本はAB判で160ページ。3900円(税抜き)。県内書店などで販売している。問い合わせは新紀元社電話03(3219)0921。

手掛けたメカデザインなどが並ぶ自宅で、著書「東宝特殊美術部の仕事」を手にする長沼さん=横浜市南区

© 株式会社神奈川新聞社