ツシマヤマネコの精子 凍結保存 人工授精へ応用検討

 環境省対馬野生生物保護センター(対馬市上県町)は13日、交通事故死したとみられる国天然記念物ツシマヤマネコから採取した精液を同センターで凍結し、生きた精子を保存することに成功したと発表した。従来は県外の施設で精液採取を試みていたが、送る間に鮮度が落ち精子が死んでいた。同センターは「野生個体の精子を繁殖に活用できれば、遺伝子の多様性確保につながる。今後、人工授精などへの応用を検討したい」としている。
 同センターは2016年8月以降、交通事故などで死んだ雌雄13体の精巣や卵巣を取り出し、種の保存に取り組む横浜市の施設に冷蔵便で送っていた。しかし、到着まで最短2日かかり精子や卵子の凍結保存には至っていなかった。
 今回、精子の採取に成功したのは昨年8月17日早朝、対馬市上対馬町の国道で事故死したとみられる雄の成獣。近隣住民からの通報を受け、発見から約2時間で精巣を摘出。精子約520万個が入った容器5本分を発見から9時間以内に凍結保存した。
 精液中の精子生存率は凍結前が65・2%。約5カ月後の今年1月4日に容器のうち1本分を融解したところ、生存率は59%まで保たれていた。
 精子採取を担当した同センターの箕浦千咲獣医師(26)は「早く通報いただけたからこそ、死んだツシマヤマネコの遺伝子を残すことができた。冬は交通事故死が増える傾向にあるので、発見した場合は早急に連絡してほしい」と呼び掛けている。
 現在、対馬には野生のツシマヤマネコが100匹弱生息し、国内の9施設で計35匹(オス18匹、メス17匹)が飼育されている。このうち東京の1施設で人工繁殖技術の開発が試みられている。

絶滅のおそれがあるツシマヤマネコ=対馬野生生物保護センター

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