「きっといいことが起こる」と信じたM・クーチャー、今季2勝目達成!【舩越園子コラム】

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虹もクーチの優勝を祝福!(撮影:岩本芳弘)

2019年の2戦目となったソニー・オープン・イン・ハワイ。開幕前は苦節19年を乗り越えた「42歳のルーキー」、クリス・トンプソンが注目を浴びていたが、残念ながら予選落ち。昨年暮れに長年の恋人と結婚し、幸せいっぱいのはずのジョーダン・スピースも、自身の2019年初戦となった今大会は予選落ちに終わった。

満足感や達成感、幸福感、高まっているはずのモチベーションや自信。プラスに作用してくれそうな要素は多々あれど、実際の成績はそうした要素となかなか比例してはくれない。そこがゴルフの難しさなのだろう。

初日を首位発進した25歳のカナダ出身のルーキー、アダム・スベンソンも2日目以降は徐々に後退していった。上っては落ち、陽が当たっては陰る。それが、熾烈(しれつ)な戦いの舞台、米ツアーの日常なのだ。

だが、落ちる選手がいれば、上る選手もいるはずで、2日目にスベンソンと入れ替わって単独首位に躍り出たのは40歳のベテラン選手、マット・クーチャーだった。

「ゴルフというゲームは簡単ではない。すべてがコントロールできていると感じられるチャンスはめったにない」

わずか2カ月前、11月のマヤコバゴルフクラシックでクーチャーは「すべてがコントロールできている」と感じ、通算8勝目を挙げたばかりだ。

そして今週も「すべてがスムーズ」と好感触を得て、簡単ではないはずのゴルフが「イージーに感じる」とさえ言っていた。

しかし、最終日を単独首位で迎えたクーチャーの精神状態がとても気になった。というのも、マヤコバで優勝した際に現地で雇ったローカル・キャディへの支払いに関する根も葉もない話が、よりによって今大会の優勝争いの真っただ中で取り沙汰されたからだ。もちろんクーチャーはすべてを否定。だが、少なからず動揺はしただろうし、不愉快だったことだろう。

そのせいだったかどうかは定かではないが、最終日のクーチャーは連続ボギー発進となり、一時は首位の座を奪われて苦しんでいた。表情からも苦悩の色が見て取れた。だが、ハーフターン前後から落ち着きを取り戻し、後半は徐々に自分のペースに持ち込んで終盤は圧巻のゴルフを披露。終わってみれば、2位に4打差の圧勝で通算9勝目を挙げた。

最終日のクーチャーの踏ん張りと巻き返しは、まるで彼のキャリアにおける動向のダイジェスト版のようだった。

年間2勝を挙げた2013年、クーチャーは世界ランキングで4位まで上昇していたが、2014年のヘリテイジを最後に勝利から遠ざかった。それでも優勝争いには何度も絡んだが、どうしても勝利には手が届かなかった。2017年の全英オープンでは3年ぶりの勝利とメジャー初勝利に王手をかけながら絶好のチャンスをスピースに奪われた。いつも穏やかなクーチャーが、あのときは珍しく肩を震わせ、悔し涙をにじませた。以後、勝てなくなり、苦しみ、昨季はライダーカップ出場も逃した。

だが、昨秋はスイングコーチとともに猛練習を積んだ。数週間後、メキシコに渡り、マヤコバで4年ぶりの復活優勝。それからわずか2カ月後の今大会で今季2勝目を達成した。

落ちても踏み留まり、はい上がるクーチャーの姿は、彼のキャリアにおいても、ある4日間、ある1日においても、きっと永遠に見られる。そう信じられる最終日だった。

2年前の全英オープンで惜敗した父親のために、18番グリーン脇で大泣きしたクーチャーの息子たちが、11月のマヤコバでも、今大会でも笑顔を輝かせていたことが、とてもうれしく感じられた。

そして、誹謗中傷やうわさに屈することなく、笑顔で巻き返し、圧勝したクーチャーが、とても頼もしく感じられた。

クーチャーが言った通り、ゴルフも人生も簡単ではなく、いつ何が起こるかは誰にもわからない。だが、彼は今日も自分にこう言い聞かせながらプレーしていたそうだ。

「自分を信じていれば、きっといいことが起こる」

よし!クーチャーのように笑顔で前を向いていこう!そう勇気づけられた最終日だった。

文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)