世界一詳しい! トヨタ 新型スープラ徹底解説
GRカンパニー初のオリジナルモデル
GRカンパニーの友山茂樹プレジデントは、2017年9月に行なわれた新スポーツカーブランド「GR」の発表会の席でこう語った。
「現時点でGRシリーズはノーマル車に手を入れたスポーツコンバージョンモデルがメインですが、次の段階ではスポーツカー専用プラットフォームを手に入れる。そして最終的には世界に通用するピュアスポーツカーを世に出しラインアップを完成させたい」。
この「スポーツカー専用プラットフォーム」と言うのが、北米・デトロイトモーターショーで2019年1月14日(現地時間)に発表された、トヨタの5代目スープラ(A90)である。GRカンパニーが手掛けた初の“オリジナルモデル”となる。
BMWとの共同開発手法が、86・BRZと異なる事情とは
しかし新型スープラは100%自社開発ではなく、すでに皆さんもご存じの通りBMWとトヨタで共同開発されたモデルである。スポーツカー開発は他のクルマより手間やお金もかかる割に、絶対的な販売台数も限られるので、景気や社会情勢に左右されやすい。これまでのトヨタはそれを理由に撤退→復活を繰り返してきた。実際、2007年にMR-Sが生産終了してから2012年に86(ハチロク)が登場するまで、スポーツカー“ゼロ”の期間を経験している。
トヨタがそこから学んだのは、「スポーツカーをビジネスとして成立させ、継続させる事」。その答えが “共同開発”だったのだ。
共同開発と言うとトヨタとスバルのタッグによって生まれた「86」と同じイメージを持つかもしれないが、開発手法は全く異なる。86は言ってみれば、2社の力で1台のモデルを作り上げたが、スープラはそれとは異なる。
トヨタ 新型スープラは、BMWの基本コンポーネントを用いてBMWのエンジニアが開発を行なうが、Z4とスープラは完全に二つのチームに分かれ、デザインや走りの味付けなどが行なわれたのだ。
新型スープラを手がけたのは、ハチロクの開発責任者も務めた多田哲哉氏
トヨタ側の新型スープラ・チーフエンジニアは。86でも陣頭指揮を取った多田哲哉氏である。
多田氏は「86をスバルと共同開発した時も大変だと思いましたが、今回はその比ではありませんでした。文化はもちろんクルマ作りのアプローチも全然違います。なので、開発当初はギクシャクしご破算になった時期もありました。しかし、『どんなクルマにしたい』と言う本音をぶつけ合う事と密にコミュニケーションを取ることで、『お前たちが作りたいクルマを我々が作る』と最終的には良い関係を築けることができました」と語る。
17年ぶりの復活! 新型スープラとはどんなクルマ!?
コンセプトカー「FT-1」のデザインに歴代トヨタスポーツカーのDNAをプラス
17年ぶりの復活の5代目スープラはどのようなモデルなのか? これまで断片的に語られてきたが、今回は初の詳細解説だ。
まず、エクステリアだが2014年デトロイトショーでお披露目されたコンセプトカー「FT-1」のイメージに近いが、より強調されたロングノーズ/ショートキャビンや先代(A80系)を彷彿とさせるリアフェンダー周りの造形、ダブルバブルルーフ(2000GT)やランプ類を内側によせる手法(2000GTや先代スープラ)などは歴代トヨタスポーツのDNAも盛り込まれている。
先代(4代目)スープラは大型リアウイングが特長だったが、新型は控えめなリップスポイラーのみ。床面がフラットに設計されており、効果的に空気を流す構造になっているため問題ないのだろう。
ちなみにボディ各所にはアウトレットを装着。量産車ではダミーだが、ここを上手に用いるとダクトとして活用が可能だそうだ。
これはもうガチのスポーツカー! 2人乗りに割り切りショートホイールベース/ワイドトレッドを実現
新型スープラのボディサイズは全長4390×全幅1865×全高1290/1295mmと、写真で見るよりコンパ
クトだ。注目は86よりも短い2420mのショートホイールベースとフロント1594/1609mm、リア1589/1616mmのトレッドの関係である。多田氏はこのように語る。
「スポーツカーは基本素性が重要です。これまでトヨタはスポーツカーでも色々な要件を盛り込みすぎて、結果的に中途半端なモデルなってしまっていた反省もありました。そこで5代目は”ピュアスポーツ”としてベストなホイールベース/トレッドを優先したパッケージを行なっています。そのため後席なしの2シーターに割り切りました」。
歴代スープラを振り返ると、ラグジュアリーなGTカーから徐々にスポーツカーに変貌していったが、5代目はガチなスポーツカーになった……と言う事を意味している。
ちなみにホイールベース/トレッド比は運動性能に大きく影響するが、新型スープラはスポーツカーの黄金比と呼ばれる1.6を実現した。
スポーツカーらしい室内空間
新型スープラのインテリアは、上下に薄いインパネと幅の広いコンソールと言う典型的なスポーツカー空間を構築。
操作系や構成アイテムを見ると、BMWのインターフェイスが使われているが、メーターやシート、そしてドライビングに寄与する操作系の一部はトヨタ専用の部品が用いられている。
注目はオーディオで、JBL製が採用されるが、兄弟車のZ4はハーマンカードン製。どちらもハーマンインターナショナルのブランドだが、クルマと同様に同じハードを使いながら、スープラとZ4に合わせたチューニングが施されているのである。
3L直6ターボとチューニングの異なる2種類の2Lターボを用意
新型スープラに搭載されるパワートレインは3種類を用意。フラッグシップとなるRZは、スープラ伝統の6気筒を搭載した。しかも直列6気筒だ。340ps/500Nmを誇る3Lターボは、BMWの型式で言うと「B58」。他のモデルにも採用されるが、主要な構成部品の多くが見直されたアップデート版。もちろん、スープラ専用にチューニングが行なわれており、ターボを感じさせない素直な特性とレッドゾーンの7000rpm上までキッチリと綺麗に滑らかに回る気持ち良さに加えて、6気筒らしいエンジンサウンドも実現している。
一方SZ-R/SZは、先代では同じ6気筒ながらNA版が用意されていたが、新型は4気筒の2Lターボが担う。「スープラは6気筒!!」にこだわる人にとっては複雑かもしれないが、モータースポーツでは4気筒で戦っていた頃もあるので……。
ちなみにスペックは2種類用意され、SZは197ps/320Nm、SZ-Rは258ps/400Nmとなっている。
新型スープラのトランスミッションは全車8速ATのみの設定。MT派には残念な部分ではあるが、多田
氏は「ATの滑らかさとDSGに負けないシフトスピードとレスポンスの良さを兼ね備えた究極のAT」と自信を見せる。
カーボンモノコックのLFAをも凌ぐ強靭なボディと鍛え抜かれた足回り
プラットフォームは最新BMWが水平展開している「CLAR」ながら、スープラ/Z4に合わせて最適化されたスペックを採用。車体はミドルクラスと言うことで高価なアイテムは使わず、アルミニウム/スチールの骨格構造を採用する。しかし、異なる素材同士の接合強度を追及した結果、ボディ剛性は86の約2.5倍、カーボンモノコックを採用するレクサスLFAも上回る強靭なボディを実現させた。
体幹を鍛えた車体に組み合わされるサスペンションは、フロント:ダブルジョイントストラット/リア:マルチリンク式を採用。ちなみにフロントはよりハイパワーエンジンを搭載するBMW M4用を水平展開しているそうだ。一部モデルにはドライブモード(ノーマル/スポーツ)や路面状況に応じて減衰力を最適制御する「アダプティブバリアブルサスペンションシステム」を採用。
更に注目は、VSCと連動しながら電子制御多板クラッチにより後輪左右間のロック率を0-100%の範
囲で無段階に最適制御可能な「アクティブディファレンシャル」だろう。
タイヤは何種類が用意されるようだが、RZはフロント:255/35R19、リア:275/35R19(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)を履く。
走りのセットアップはトヨタのマスタードライバーだった成瀬弘氏(故人)の最後の愛弟子の一人であるヘルヴィッヒ・ダーネン氏が、BMWに駐在して実施。トヨタFR伝統の「速さやラップタイムよりも気持ち良さを重視」、「限界域でもドライバーを裏切らない」、「基本は安定だがドライバーの意志で自由自在にコントロール可能」と言う部分は継承されている。
ちなみに新型スープラのプロトタイプ試乗会では、リアのナーバスな動きが多くの同業者から指摘されていたが、量産までにシッカリと改善されるというので心配はいらない。
世界中の道や環境で熟成を図ってきた新型スープラ
正式発表前から世界各国でトヨタ 新型スープラのテストカーの目撃情報がネットにアップされ話題になっていたが、その理由の一つは、新型スープラをリアルワールドで鍛えるためだ。
ニュルブルクリンクでのテストはもちろん、欧州のカントリーロードやアウトバーン、北欧の氷雪路、北米のハイウェイ、日本のワインディングロードやサーキットなど、ありとあらゆる道を走行。更に昨年10月、デビュー前にニュルブルクリンク耐久選手権(VLN)にも参戦し、さらに経験値を上げた。
ちなみに過去を振り返ると、レクサス LFAも86も発売前にニュルでの卒業試験を受けている。
GRカンパニーの友山茂樹プレジデントは以前、筆者のインタビューで「スープラはニュルで鍛えて最後に『OK』のスタンプを押すのがモリゾウである必要はあると思います」と答えたその言葉通り、モリゾウ選手もステアリングを握った。メディアには多くを語らなかったが、走行後の“笑顔”が全てを物語っていたそうだ。ちなみにベンチマークはポルシェ・ケイマンとの事。
トヨタ新型スープラ市販モデルの日本国内での正式発売は、今年2019年春頃と正式発表された。価格も頑張れば手が届くくらいに設定されるそうだ。
ピュアスポーツに生まれ変わったトヨタスポーツのフラッグシップをリアルワールドでステアリングを握るまで、あと少しの辛抱である。
[筆者:山本シンヤ/撮影:和田清志・トヨタ自動車]