店の明かりを、まちの希望の灯に~浸水から復活したラーメン店

師走のまちに、ラーメン店の明かりが復活。天井近くまで浸水し全てを失った店舗が、地域の明かりを絶やしてはならないと奮起し、災害5か月後の2018年12月6日に営業を再開した。その復活劇をリポートしよう。

営業を再開した「ラーメン康」

雨が降り続いた2018年7月6日。ラーメン康代表の藤井陽子さんは、「雨がひどいため、普段より早い20時に閉店する」と、本郷本店の店長から連絡を受けた。

その後も雨は強くなり、沼田川の堤防が決壊。三原市南方にあるラーメン康の周辺は水位が上がる一方だった。近くに住む陽子さんは、店のことが不安になりながらも近寄ることすらできなかった。同日夜、一帯は完全に水没。水位は一番高い場所では3メートルに達した。

翌朝7時半。近くに住む人が撮影して陽子さんに送ってくれたという写真。店は屋根のすぐ下まで浸水していた(画像提供:ラーメン康)

国道2号が通行止めになったため、周囲の交通は大混乱。陽子さんは、7 日は店にたどり着くことができなかった。

翌8日朝。迂回に迂回を重ね、やっとのことで店に到着した陽子さんの目の前に、信じられない光景が広がっていた。本郷本店は、泥水こそ引いていたものの、壁に浸水の跡がくっきりと残っていた。イスがテーブルに上がったり、大きな冷蔵庫がすべて倒れたり。何もかもが泥にまみれての「全損」だった。

被災後、初めて店に入ったときの様子(画像提供:ラーメン康)

65席ある店舗内はもちろん、倉庫の中にはイベントへ行くための機材などもあり、使えなくなった備品があふれた。全ての物を外へ運び出すだけで1週間かかったそう。まだ災害ゴミを集める場所すら決まっておらず、ただひたすら駐車場へ積み上げた。

陽子さんと家族、スタッフがまず着手したのは、店内や広い駐車場に残された泥をかき出すことだった。「泥は乾いたら取り除けないと思って、必死でした」(画像提供:ラーメン康)

「家族の他、娘や娘婿の友達もたくさん集まってくれて…。イベント出店していたことが縁で、全国にいるイベント仲間も駆け付けてくれました。キッチンカーで炊き出しをしてくれた仲間もいて、本当にありがたかった。1週間でのべ100人以上の人が手を貸してくれました」と感謝の気持ちで振り返る陽子さん。

 

ラーメン康は、2002年に藤井さん夫婦が立ち上げた。しかし2014年1月、康彦さんは病によりこの世を去った。康彦さんのラーメンの味や情熱は、家族やかつての従業員、実弟たちによって引き継がれて今がある。

「もうだめだ、どうしようもないと思った時に、この写真が目に入ったんです。この写真は水没することなく、この状況を、ただじっと全て見ていたんですよ」

2度目の試練ともいえるこの状況を乗り越えよう。康彦さんの写真が、ラーメン康再建へ力をくれた。

すぐ下まで水が迫ってきていたが、康彦さんの写真は無事だった

被災した周辺地域は、活気がなくなっているのも事実。

陽子さんは「地域で被害に遭った人たちにとって、灯りの一つになりたい。今までたくさんのお客様に愛されてきた私たちの店が元気に復活することが、地域を照らすのではないか」と思うようになる。

そこで、家族やスタッフと考えに考えた結果、三原市宮浦で営業していたラーメン康 宮浦店を11月末で閉店することにした。本郷本店の再開に全てのエネルギーを注ぎ、応援の声に応えることを選択したのだ。

 

「私たちにできることは、笑顔でおいしいラーメンをお届けすること。本郷に元気を取り戻してもらうために、ラーメン康を何とか再建したい。そこで、知人から、クラウドファンディング(CF)を勧めてもらったんです」

8月14日から9月28日までの45日間、足りない厨房機器の費用の一部をCFで募った。支援者たちの名は、店内中央の大黒柱「支援柱」に書かれている。

CF期間中、多くの励ましと支援が寄せられ完成した支援柱。陽子さんたちの思いのこもった「笑」「結」「挑」「響」の4文字が書かれている。名前を書いたのは、鳥生春陽さん、手紙家くまさん、礒根さんの3人の書道家

 

リニューアル後の店内

ラーメン康に入ると「笑」の文字が真っ先に目に入る。「笑の字を見て、にこっと笑ってほしい。私たちスタッフにとってもお客様の笑顔が元気の源」と陽子さん。その先には、お客とスタッフを見守るように笑っている康彦さんの写真が掲げられている。

12月6日は、再会を待ちわびた多くのお客でにぎわった。

2度目の試練を乗り越えたラーメン康本郷本店は、2月に14周年を迎える。感謝の気持ちを笑顔に変えて、前を向いて歩んでいく。

本郷のまちに、康のラーメンが復活した(画像提供:ラーメン康)

 

いまできること取材班
取材・文 門田聖子
写真 堀行丈治

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