災害記録は未来へのバトン 住民団体がDVD作成

(写真提供:八本松住民自治協議会)

西日本豪雨直後は、何もかもが混乱し、情報が錯そうした。災害後、落ち着いて当時のことを振り返ることも、大切なことなのかもしれない。

東広島市八本松町の住民自治協議会が制作したDVD「7・06西日本豪雨 八本松の災害記録」には、災害直後のリアルな画像や写真が収録されており、薄れゆく記憶をよみがえらせてくれる。

東広島市と連携しながら、八本松小学校区を基本にまちづくりに取り組む八本松住民自治協議会。2013年4月に設立され、翌14年6月には協議会の中に防災対策委員会も立ち上がった。防災対策委員会は、同自治協を組織する18の自治会に自主防災会設置をうながす組織。防災対策委員会の存在のおかげで、八本松住民自治協議会では、2015年3月までに全ての自治会に自主防災会が立ち上がっている。

東広島市内はもちろん、同自治協内も、西日本豪雨により大きな被害が出た。自治協内の3カ所に避難所を開設し、延べ119人が避難した。人命に被害はなかったものの、災害箇所は30地域67カ所にのぼった(2018年7月15日)。

同会は、被害状況を調査しつつ、すぐに次のアクションを起こした。

被災状況をまとめたDVDの制作だ。

7月9日撮影。車両の周りを埋め尽くした土砂は1メートル近く積もっていることが見て取れる。「19年前に同様の豪雨が起きたが、その時は土のうで防ぐことができた」という話から、今回の災害の甚大さがうかがえる(画像提供:八本松住民自治協議会)

防災講演会の様子

同会では、災害直後から動画や写真で地域内の被害状況を記録。約2カ月かけて編集し、35分にまとめた。動画や写真にナレーションや地図を入れ、見るだけで分かりやすく災害状況を伝える内容になっている。

DVDは9月4日に完成し、自治会内の自主防災会や小学校で上映された。あまりに反響があったので、自治協内の全自主防災会、小学校、中学校の他、防災士、市、県、国会議員、消防署、災害対応等検証委員会、大学教授などに渡った。学区の祭り、八本松ふるさと文化祭でも上映された。特に自主防災会内では、11月末までに7カ所での上映要請があり、地域住民の高い関心がうかがえる。DVD制作に関する取材要請や問い合わせも相次いでいるという。

10月27日に八本松小学校で行われた「防災教育参観日」では、DVDの上映後、災害に備えてできることを児童、保護者が考えた(画像提供:八本松住民自治協議会)

貴重な映像を記録した中心人物は、これまで5年間、同自治協の広報を一手に引き受けている景山晟さん。学区に全戸配布される「自治協ニュース」を制作してきた。

企画広報部長の景山さんの取材方法は独特だ。普段から、動画を撮影し、それを見ながら下原稿を書いている。その結果、今までの自治協の活動は、全てデータとして残っている。景山さんは「残していくのは広報部長の私の使命。新聞を発行し、そのデータを残すことで、将来何らかの役に立てばと思っています」と説明する。そんな景山さんの存在があってこそ、今回のDVDが完成した。

自治協ニュース

これまでの活動を振り返り、景山さんは「防災委員会や各自主防災会の行うイベント、行政機関の防災情報などを自治協ニュースに掲載することで、住民の皆さんの防災意識の向上の一助になったのでは」と分析する。

「自治協ニュースは全戸に回覧されます。自主防災会のさまざまな活動が掲載されると、それを見た他地区が『この地域はこんなことをやっているのか』『次はうちも』と刺激をもらう、よい連鎖が生まれました」と感謝する、防災委員会の牧野委員長。

景山さんが映像で記録することには、もう一つの目的もあった。

「土石流や崖崩れ、河川の氾濫等で大きな被害をもたらした西日本豪雨。7月末に台風接近が懸念され、行政機関に緊急対応を要望する必要がありました。また、将来に向けて対応してもらいたい要望もあります。そのための記録として、映像を撮っていました」

こうして、DVDと並行して、映像を元にした災害記録も完成した。

「7.6西日本豪雨災害 復旧と台風12号対応」と題した災害記録は11項目を掲載し、8月6日に完成。「応急復旧を急ぐ災害現場の対応」が6つ、「将来に向け対応するもの」が5つ記載されている。「台風が恐ろしい」という住民のコメントや、「少しの雨でも水量が上がれば再び下流に流れ危険」と予想するコメント、「土砂ダムの設置について検討を望む」という意見も掲載している。

これらの報告を受け、市からは9月、10月に一部回答が寄せられたという。

今回の災害を契機に、「『自分の命は自分で守る』という思いを高める運動を展開したい」と話す土久岡章治八本松住民自治協議会会長。地域で発生した災害について、住民の声を丁寧に聞き取り、声に対する返事を返す、実行に移すことが肝要だと語る。「できることはできる、できないことはできない、と答えることも大切。住民の声を聞いたら、スピード感をもってフィードバックしていきたい。それこそが我々にとっても大切な経験になる」と力を込める。

今回の被災状況をDVDで公表することで、住民の防災意識が向上したこと、土砂災害警戒区域や特別警戒区域の周知徹底がなされた。

また、住民が実体験したことを記録することで、災害時対応の規約やマニュアルを修正するきっかけともなった。災害本部や地域の避難所に必要な資器材の整備もしなくてはならないだろう。

災害後、復興していく中で、当時の記憶は薄れていく。
しかし、記録を残していくことの大切さを、八本松住民自治協議会制作のDVDが教えてくれた。

 

いまできること取材班
取材・文 門田聖子(ぶるぼん企画室)

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