小さな声に向き合うこと 〜倉敷のママにチカラを

「がんばろう、倉敷」。東日本大震災の被災地を何度も訪れて見慣れた「がんばろう」の文字。そこに倉敷という文字が入る日がくるとは、おそらく多くの方と同様、倉敷で生まれ育った私も、思いもしませんでした。その倉敷での小さな活動の一つをご紹介します。

私たちのもともとの活動は、授乳服というツールを通して、お母さんと社会をつないでいくこと。授乳していることに気づかれず、赤ちゃんを泣いて待たせることなく授乳ができる環境を、衣服という形で作っています。新潟県中越地震の際、寒い避難所で、お母さんたちが授乳に困っているという悲鳴を聞き、授乳服を被災地に送る活動を始めました。その後も、東日本大震災、熊本地震と、送り続けてきました。

実は、年を追うにつれ、避難所にお母さんの姿は見えなくなりました。赤ちゃんが泣いたり、子どもが騒いで迷惑をかけること、また授乳の難しさなどの理由から、車に寝泊まりしたり、親戚知人を頼って早い時期に避難所を出るケースが増えています。(今の社会の子育ての孤立化を象徴するようです。)結果として、車に寝泊まりすることでの健康二次被害や母乳のトラブル、母子の困難な状況が行政で把握できないといった問題も起こっています。

ふるさとが災害に見舞われた衝撃はありながらも、いつものように支援活動を始めた私に、多くの方から励ましや提案が届きました。

取材によって現地への支援や関心を持ってもらおうという動きには、走り回ってご協力しました。スマートサプライというサイトでは、「お母さんと赤ちゃんにこうした困難さがあることを多くの方に知っていただくべき」と、これまで自力で送っていた活動に対し、クラウドファウンディングでの資金集めをご提案いただきました。

現地の助産師会や子育て支援団体にも足を運び状況を伺って、授乳が難しいためトラブルを抱えて助産院に駆け込むお母さんたちが多いことも知りました。そのため、授乳服だけでなく、一時的に助産院に泊まる費用も賄えるように支援を集めることにしました。

ふるさと納税の代理寄付の先駆者でもある茨城県境町をはじめ、茨城県守谷市では、広島県と倉敷市への代理寄付を早々にスタートいただきました。他の市町村へも代理寄付の呼びかけをいただき、その市町村の首長さんたちがいらっしゃる場に顔を出した際、皆さんが口々に、「光畑さん、倉敷、大丈夫か」と言葉をかけて下さり、本当にありがたいと思いました。

東日本大震災の際、授乳服は、単に避難所で使われるだけではなく、瓦礫の片付けの際や、他の方との交流の助けになったと言います。また、ストレスが非常に大きくなった状況の中で、授乳の際の心と体の負担を軽くすることができたと、被災地の助産師さんたちはおっしゃいました。

さらに境町からは、ふるさと納税によって、さらに母子支援をしようというお話をいただきました。「すでに緊急性はないかもしれない」という私に、観光協会の野口さんからはこんな言葉をいただきました。「災害がある地域は、必ずまた起きる可能性が高い地域でもある。だからこそ、続けて支援していく仕組みが必要なんです。だから、もう時間が経ったから、支援はいいのだろうではなく、だからこそもっともっと支援すべきなんだ」。

結果として、各支援活動には、多くの支援者の方から応援の声をいただきました。

「表に出にくい問題に光をあてるいい企画だと思います。応援しています。」

「なんて素晴らしい取り組みでしょう!発案した方に拍手です!!
授乳服にとても助けられた育児生活でした。ぜひ1人でも多くのお母さんの手に渡りますように!わずかですが、役立てて頂けたら嬉しいです。」

「私も小さな子がおります。そんな子を連れての避難所生活を想像しただけで辛いです。少しでも多くのお母さんがストレスなく赤ちゃんに母乳をあげられる環境になりますよう祈っております。」

今回ご紹介した倉敷での活動は、赤ちゃんがいるお母さんへの、本当に限られた範囲の方々への小さな支援です。同じように、障害を持ったり、持病があったりと、さまざまな困難を抱えている方々が、どんなふうに被災時に困っているか、ということは、身近に関係者がいなければ、気づかれないことが多いものです。当事者でさえ、最初からあきらめていて、声が上がることは少ないでしょう。今回も、これからも、こうして、少数の方々の支援を、それぞれができる形で声を上げ、支援していくことが、すべての方々が手を取り合いながら災害を乗り越えるためのエンパワメントにつながると思うのです。

【光畑由佳プロフィール】

モーハウス代表取締役/NPO子連れスタイル推進協会代表理事
倉敷出身。お茶の水女子大学卒。美術企画、建築関係の編集者を経て、1997年、自身の電車内での授乳体験をきっかけに、産後の新しいライフスタイルを提案する「モーハウス」の活動を開始。社会と子育てをつなぐ環境づくりのため、授乳服の存在を国内に広めて来た。同時に、自社で実践する「子連れワークスタイル」は古くて新しいワークスタイルとして国内外から注目され、女性のチャレンジ賞など受賞歴多数。2012年にはデザインコレクション「ネパール」を誕生させ、ネパールの女性が糸から紡いだフェアトレードの授乳服を発売。ネパール女性の自立支援に貢献。「暮らしの質向上検討会」など政府関係の有識者会議委員ほか、2014年に北京で、2016年にペルーで開催された「APEC女性と経済フォーラム」に参加。筑波大学大学院非常勤講師。三児の母。

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