引退の巻誠一郎 ピッチ内外で全力プレー

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ロアッソ熊本入りし、あいさつする巻誠一郎=2014年1月、県庁(宮崎あずさ)

 ロアッソ熊本は2018年シーズンのJ222チーム中21位に沈み、初のJ3降格の屈辱を喫した。怒号、罵声、叱咤(しった)…。敗戦のたびに巻誠一郎はゴール裏の応援席の前に立ち「サポーターの気持ちを胸に刻み、必死に頑張るしかない」と険しい表情で繰り返した。その姿に「ミスターロアッソ」、プロとしての矜持(きょうじ)がにじんだ。

 昨季は結果を残せないチームをベンチから見守ることも多く、じくじたる思いがあっただろう。だからこそ、短い出場時間の中で必死にボールを追い、ピッチ上の同僚を鼓舞し、スタンドを盛り上げた。

 最後まで走り抜く“全力プレー”は、ピッチの外でも同じだった。16年の熊本地震では、復興を目指す古里の救援活動に奔走。車中泊をしながら募金口座を開設し、総合通販サイトを通じて集めた物資を益城町などの被災地に自ら運んだ。

 「一人一人が自分にできることをやれば、熊本は少しずつ前に進む」。練習に励みながら支援に力を尽くす姿に、親交の深い現役の日本代表も呼応。FW岡崎慎司やDF槙野智章らが甚大な被害が出た西原村などを慰問した。

 06年ワールドカップ・ドイツ大会ではブラジル戦のピッチで躍動。輝かしい経歴の38歳は熊本の精神的支柱だった。運営会社のアスリートクラブ熊本も「必要不可欠な人材」とし、昨年11月のリーグ終了後から年をまたぎ、契約更新に向けて異例となる4回の交渉を重ねた。

 戦力強化の責任者、織田秀和GMは「チーム唯一の『全国区』。豊富な経験を、非常に重要な今季に生かしてほしかった。新たなリーダーを育てる必要に迫られる」と苦しい胸中を明かした。「1年でJ2復帰」を掲げる熊本は、かけがえのない存在を失った。(後藤幸樹)

(2019年1月16日付 熊本日日新聞朝刊掲載)