東京五輪誘致〝疑惑〟捜査 このタイミングのなぜ? 口閉ざす竹田会長

2019年1月15日、記者会見するJOCの竹田恒和会長(左) パパマッサタ・ディアク氏(右)

 2020年東京五輪招致を巡り、日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長に対してフランス当局が贈賄容疑で正式に捜査を始めた「五輪疑惑」。16日、シンガポール地裁で渦中のコンサルタント会社元代表に有罪判決が言い渡された。元IOC委員の息子が所有する会社への送金をコンサル業務の報酬として捜査当局に「虚偽報告」したことが問われたものだった。竹田会長は15日の会見で招致委からこのコンサル会社への2億円超の支払いについて「業務に対する適切な対価」と繰り返し主張。今回の元代表への判決は東京五輪招致との関係は不明だが、竹田氏側のイメージ悪化はさらに増したとも言える。11日に、フランス紙ルモンド電子版が竹田会長を贈賄の容疑者とする捜査開始を決定と報じてから一連の疑惑報道が再燃し続けている。なぜこのタイミングだったのか。五輪関係者から話を聞いた。(共同通信=柴田友明)

 架空の請求書

 まずシンガポール地裁判決と一連の疑惑との関連についてまとめたい。

 共同通信は16日に「シンガポール地裁が、汚職捜査局に虚偽の説明をした罪で、2020年の東京五輪招致委が契約していたコンサルタント会社ブラックタイディングス社(BT社)の元代表タン・トンハン被告(36)に対し、禁錮1週間の有罪判決を言い渡した」と報じた。BT社は13年に東京五輪招致委と2億円超のコンサルタント契約を締結。タン被告は当時のIOC委員だったラミン・ディアク氏の息子、パパマッサタ・ディアク氏と親密な関係だったとされ、金の一部が票の買収のためディアク氏側に渡ったとの疑惑を仏当局が捜査している。

 そもそも一連の疑惑の発端は世界反ドーピング機関(WADA)の報告書からで、ロシアのドーピング隠しに関連して16年5月に英紙が報道。BTの口座に五輪招致委からの送金記録が確認されたというものだった。シンガポールとしても自国が舞台となったため、捜査当局がタン被告を聴取。①パパマッサタ・ディアク氏側から約55万シンガポールドル(約4400万円)の送金を受けた②コンサル業務の実態はなく、パパマッサタ氏の指示で架空の請求書を作成した、との証言や証拠が得られたため、今回の有罪判決になったとみられる。ただ、禁錮一週間という量刑は軽いとの指摘も。虚偽報告のみ問われ、金銭の流れの全容は明らかになっていない。

 予審判事の決断

 東京五輪招致や一連の疑惑に詳しい関係者は、ただちにIOCが倫理委員会を開いて竹田会長への聞き取りを行ったことに注目している。フランス当局の正式な捜査開始について「フランスの予審判事、竹田会長サイドから洩れたとは考えにくい。IOC内部からリークがあった可能性もある」と推測する。

 IOC倫理委は11日にテレビ会議の形式で竹田会長を聴取。協議内容について詳細はオープンにせず、「推定無罪の原則を尊重しつつ、状況を注視していく」との姿勢を示した。筆者が取材した関係者は、バッハ会長、竹田会長の足を引っ張りたい「反主流派」の動き、それに即応した「会長派」の動向があったとの見方を語った。一方で、日産前会長のカルロス・ゴーン被告の追起訴との時期が近かったことは偶然だったとも述べた。

 正式に捜査を開始したフランスの予審判事は、捜査共助として東京地検を通じて入ってくる竹田会長の「供述」に満足せず、昨年夏ごろに竹田氏本人への聴取を強く求めてきた。フランスで付き添う弁護士の手配、準備などに時間がかかり、昨年12月10日に竹田氏聴取をして捜査を決めたとされる。この予審判事は来年夏には退任予定で、長く続くとされるこの捜査がどう引き継がれていくかも今後注目されるところだ。

 竹田氏本人は当初1月15日の会見に乗り気だったが、IOC側の強い意向もあり、同日未明に質疑に応じないことを急きょ決めた。再会見することには否定的で、16日は日本スポーツ協会の理事会に出席したが、発言はなく口を閉ざしている。

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