『現代日本の場面設定辞典』株式会社ライブ編 シーン描写に役立つデータベース

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 あなたが小説を書くとする。冒頭の場面はネットカフェにしたい。えーっと、どんな所だっけ?と思い悩んだ時にこそ本書の出番である。

 花見、焼肉屋、文化祭、空港……と300を超す場面で「見えるもの」「聞こえる音」「においや味」を列挙し、「この場面で感じる感覚」「この場面で想定される状況」を挙げた。その数、17000以上。リアリティーある場面描写や登場人物の造形に役立つデータベースというわけだ。

 「卒業式」の場面なら、「貼りだされた式次第」が見え、「写真を撮るシャッター音」が聞こえ、「クリーニングしたての服のにおい」がし、「新しい生活が待っている不安と期待」を感じ、「クラスのあちこちで連絡先が交換されている」状況が想定される。

 欄外にその場面に登場する人物候補や、「薄暗いトイレは心霊現象の舞台に最適です」という「設定時のヒント」まで記すサービスぶり。誰でも気軽にネットで小説を発表できる時代にこそ生まれた辞典といえる。

 ツッコミどころも満載だ。「商店街通り」では「ずれたり割れたりしたタイルにつまずく痛さ」、「豆腐屋」では「額に巻いたタオルの締めつけ感」という独自の感覚を挙げ、「中学校の教室」では「文化祭後の生徒たちの打ち上げを探し出して現場を押さえることを楽しみにしている先生がいる」というマニアックな状況を想定している。

 「現代日本」と銘打つだけあって、「執事喫茶」や「地下アイドルライブ」など「オタクにまつわる場面」に1章を割くこだわりの編集。無味乾燥に陥りがちな辞典からにじみ出る作り手の個性が楽しい。

(KANZEN 2700円+税)=片岡義博