『動物園巡礼』木下直之著 人の思想が試される場

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 見世物や銅像を研究してきた美術史家が全国各地の動物園や水族館を訪ね歩き、日本の動物園の来し方行く末を考えた。上野動物園の「おサル電車」の歴史をひもとき、名古屋・大須商店街のラクダ行列を見物する。足取りも筆致も軽快だが、テーマは決して軽くない。

 1882年に日本で初めて上野に開園した動物園は博物館の附属施設だった。いわば「動く標本」だった動物園は戦後、子どもたちを楽しませる娯楽施設、教育施設として急増する。とくにチンパンジーやゾウが曲芸をする動物ショーは大人気だった。

 しかし芸達者な動物たちは1970年代から姿を消していく。動物虐待を禁じる法律ができたからだ。著者は遊園地に付帯する小さな動物園にも足を運び、資料を手がかりに人気者だったサルやゴリラ、ゾウたちの足跡を追う。その多くは人間の身勝手な都合により虐待され、処分される受難の物語である。

 今、動物園は大きく変わりつつある。外国産の珍獣を見せる「戦後型動物園」は影を潜め、代わって旭川市旭山動物園のように動物本来の生態を見せる「行動展示」が広がっている。家畜やペットの展示も登場した。

 地味で小規模でも人間と動物の関係を考える場こそが「未来の動物園」だと著者はいう。例えば武蔵野の自然に触れる生態園を目指す井の頭自然文化園(東京都武蔵野市)や、地域の小動物を展示する富山市ファミリーパーク。

 動物の扱い方によって人間の思想が試される。動物を見る私たちは一方で動物に見られている気もする。

(東京大学出版会 2800円+税)=片岡義博