香港「雨傘運動」の〝女神〟来日

 アニメ大好き 一国一・五制度の現状語る

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東京大で講演する香港の周庭氏=5日午後、東京都目黒区

 2014年に香港で起きた大規模な民主化デモ「雨傘運動」を率いた学生団体
の元幹部、周庭さん(22)が年末から年始にかけて来日した。5日に東京大の駒場キャンパスでトークイベントがあり、記者が参加した。周さんは香港バプテスト大で政治や国際関係を学ぶ4年生で、雨傘運動の若者らがつくった政治団体「香港衆志」のメンバーとして活動する。大好きなアニメなどを通じて磨いた日本語で約2時間、香港の現状や活動にかける思いを語った。(共同通信=鮎川佳苗)

 ▽普通選挙、実現できなかった「雨傘」

 香港は「一国二制度」の下で高度の自治を持つとされるが、14年、中国は香港のトップ・行政長官選挙への民主派の立候補を排除する制度を決定した。激しく反発した学生や市民が真の普通選挙を求め、主要幹線道路を占拠。排除しようとする警察部隊の催涙スプレーを傘で防ぎ雨傘運動の名が付いた。

 周さんは運動を通じ〝民主の女神〟と呼ばれた。周さんが紹介した、街にデモ参加者があふれる写真が、当時の熱気を伝える。しかし「雨傘」は結局、普通選挙の実現を果たせず終わった。

2014年10月、「雨傘運動」の大規模デモで香港中心部の幹線道路を封鎖する参加者たち(共同)

 ▽悲しい流行語

 その後、中国は民主派や香港独立派への圧力を強化。立法会(議会)の民主派議員の議員資格が剝奪されるなどの動きが続いた。

 周さんも昨年、立法会補選への立候補を無効にされた。香港メディアは「DQ(Disqualify=失格させる)」との見出しでニュースを伝えた。「香港には最近『DQ』という言葉があり、もし流行語大賞があれば流行語になれると思う。悲しい、怒るべき流行語です」

 ▽制服を着替えて

 周さんが政治に関心を持ったきっかけは、12年に起きた「愛国」教育に反対する大規模デモ。「中国国民としての愛国心」を育成する科目の導入に、洗脳だと教師や保護者らから反発が起きた。「政治には興味ないし、ニュースは難しい話が多くてつまんない。毎日、アニメに夢中」な中学生だった周さんは、自分と同年代の学生団体が反対運動をしていることをフェイスブックで知り、興味を引かれた。

 放課後、ショッピングモールで制服からTシャツに着替え、デモに通った。激しい抗議運動を受け、香港政府は科目導入を事実上見送った。

 ▽一国二制度は中国のうそ

 中国の習近平国家主席は今月2日、一国二制度による台湾統一を呼び掛けた。台湾出身という男性は周さんに、習氏の演説について「台湾の人たちへ、香港からの教訓やアドバイスがあれば」と問い掛けた。

 今の香港は「一国一・五制度みたいな」状態だと答えた周さん。自由やさまざまな権利が減っていく状況を経験してきたとして「一国二制度の方向へ行ってはいけない」と力を込めた。「台湾は民主的な制度や選挙を持ち、権利をすごく大事にしている。一国二制度は中国のうそ。信頼できない」と話した。

 ▽日本がうらやましい

 周さんは日本が好きで、何度も来日したことがある。「香港と日本の社会の雰囲気はすごく違う。国や制度、政治に対する考え方も違う」と感じている。日本の若者は政治や社会問題に関心が低いと述べた参加者に、「間違っているかもしれないが」と前置きした上で「年齢を問わず、日本の人が一番大切にしているのは平和だと思う」と応じ、占拠運動やデモは「迷惑を掛ける」行為だとの意識があるのではないかと話した。

 「香港は民主主義を持ったことがない。私たちから見ると日本がうらやましいです」と言う。「日本では想像もつかないような、ばかばかしいことが香港では起きている」。民主状況の悪化を訴える際、日本に何度も触れた。

 「香港人は今、一生懸命民主のために闘っている。逮捕された人も、デモで警察に攻撃された人もいる。『民主』は簡単に手に入れられるものではない。当たり前のように扱ってはいけない」。日本に暮らす私たちに、こう呼び掛けた。「日本の皆さんも、持っている権利をちゃんと大切にして、起こっていることを常に警戒し、チェックすることが重要だと思います」

「DQ」と書かれた、自身の立候補無効を伝えるニュースを紹介する周庭さん=5日、東京大の駒場キャンパス

 ▽「家」

 30年前の6月、中国は本土で起きた民主化運動を武力弾圧した。天安門事件だ。当時の運動に「少しだけ参加」し、長年日本で暮らしてきたという南京出身の女性は、周さんたちの活動への共感を込めて「あの国に変わってほしい。でも中国共産党はどんどん厳しくなっている」と訴えた。

 雨傘運動が香港の政治の中心地「アドミラリティ」を占拠した時、周さんは希望を感じた。「雨傘」後、無力感や政治への無関心が広がり、民主化デモや集会などに参加する若者が減った。それでも周さんはあきらめてはいない。

 「香港より厳しい状況にある人が世界にはもっといる。私たちは弾圧されているけれど、少しの自由は持っている。中国でも、弾圧されている人はたくさんいる」

 中国が圧力を強める中、「香港から移民しないのか」と聞かれることもあるが、今は香港でがんばりたいと語った。「私たちの未来は中国共産党が決めるのではなく、香港人が決めなければだめ。香港に残り、香港を守りたい。悪い方向に進んでいるけれど、香港は私にとってすばらしい『家』だから」