対馬万葉の会 市内の小中学校に冊子寄贈

 「万葉集」で和歌に詠まれた対馬の歴史風土に親しんでもらおうと、長崎県対馬市民有志でつくる「対馬万葉の会」がこのほど、同会制作の解説冊子「対馬が舞台となった万葉歌」を市内の全小中学校に寄贈した。市教委は「対馬の歴史が分かりやすくまとめられており、ありがたい。総合学習などに役立てたい」と歓迎している。
 万葉集は飛鳥時代や奈良時代の天皇や貴族、庶民など、さまざまな身分の人が詠んだ和歌を約4500首集めた日本最古の歌集。
 同会によると、対馬を詠んだのはこのうち30首近くあるとみられ、朝鮮半島や中国大陸に渡った外交使節「遣隋使」「遣唐使」「遣新羅使」の歌や、国境守備兵「防人(さきもり)」の歌が編まれている。
 冊子はA4判33ページ。「遣隋使と遣唐使」「防人と金田城(かなたのき)」など八つのテーマで当時の時代背景や詠まれた和歌を紹介している。
 「防人と金田城」の項目では、大和朝廷が朝鮮半島で唐・新羅連合軍に大敗した白村江(はくそんこう)の戦い(663年)を受け、国境警備のため翌年から対馬に防人を配置し、対馬西岸に金田城を築城(667年)したことを説明。
 その上で「関東をはじめ東国から派遣された防人は難波津(なにわつ)(大阪)までは、武器はもとより旅支度も自己負担。赴任地では自給自足が基本とされた」と解説し、防人が出征する際に残していく妻を思って詠んだ次の一首を紹介している。
〈対馬の嶺(ね)は 下雲あらなふ 神の嶺に たなびく雲を 見つつ偲(しの)はも〉
 「対馬の嶺には、嶺を取り巻く下雲はありません。ですから、嶺の上にたなびく雲を見ながら、妻よ、あなたを思い出して偲ぼうよ」(同会による現代語訳)
 巻末には、対馬が舞台となった和歌と関連する対馬の景勝地を示した地図も掲載している。
 同会の江口栄会長(64)は「家族を思う気持ちは、今も万葉の昔も変わらない。対馬にまつわる和歌を学び、ふるさとへの関心を高めてもらえたら」と話している。

対馬市内の小中学校に配布した「対馬が舞台となった万葉歌」の冊子を手にする江口会長=同市内

© 株式会社長崎新聞社