攻撃対象を次第に拡大 懲戒請求の大半は50代超 <沖縄フェイクを追う>⑯~ヘイトの増幅?

 「偏った思想に取り付かれ、内容を吟味せずに加担してしまった」

 「マインドコントロールされ、集団ヒステリー状態になってしまった」

 これらはブログ「余命三年時事日記」を読み、弁護士への懲戒請求を出した人が宛てた手紙の一文だ。懲戒請求を受けた一部の弁護士らが請求者を提訴する動きが始まっている。提訴が明らかになった後、懲戒請求を受けた弁護士に謝罪の手紙が続々と届いている。

 懲戒請求を受けた東京弁護士会の佐々木亮弁護士、北周士弁護士は懲戒請求者に対して、損害賠償を求める訴訟を起こしている。和解にも応じており、10日現在で31人が和解を申し込んできたという。

 懲戒請求者はどのような人物なのか。両弁護士によると、和解を申し込んだ懲戒請求者の多くは50代後半から60代で若くても40代だった。男性が6割、女性が4割程度で性差での違いはほぼなかったという。さらに、一戸建てとみられる住所が多く、氏名でたどると医者や経営者、公務員なども含まれていたという。

 取材を進めていくと、ブログを読んで懲戒請求を出した請求者は、県内からも少なくても3人いることが分かった。取材班は昨年11月中旬から懲戒請求者に接触を試みているが、1月中旬までに取材することはできていない。

 そのうち、一人の男性が住所としていたのは本島中部の県営住宅の一室だった。昨年11月20日夜、その住宅を訪ねると、全ての部屋の電気は消え、郵便受けには封がしてあり、人が住んでいる気配はなかった。後になって県に確認したところ、この県営住宅は建て替えが決まり、入居者はすでに退去していた。新たな住所に転送されることを期待し、郵送で手紙を出したが「あて所に尋ねあたりません」として戻ってきた。

 懲戒請求を受けた東京弁護士会の佐々木弁護士、北弁護士は共に在日コリアンの弁護士でもなく、懲戒請求のきっかけと言われる日弁連の声明にもかかわっていなかった。

 ただ、佐々木弁護士は「余命三年時事日記」を書籍化した出版社の労働問題に関する訴訟で、労働者側の代理人を担当した経緯があった。このことが懲戒請求を受けるきっかけになったとみられる。

 佐々木弁護士が身に覚えのない懲戒請求が届いたことをツイッター(短文投稿サイト)で発信したところ、北弁護士が佐々木弁護士を擁護する書き込みをした。その後、北弁護士も懲戒請求の標的となった。

 佐々木弁護士は「根底にあるのは差別だと思う。ネットという媒体を通して、狭いところで読者が共感し合い、民族差別があおり立てた。そして、次々とターゲットを広げていった」と分析する。一つのブログで在日朝鮮人へのヘイト(憎悪)感情が増幅され、徐々に攻撃対象を広げていった構図が浮かび上がった。

 請求者への訴訟について、北弁護士は「放っておくと今後もエスカレートしていく可能性がある。闘える状況の時に歯止めを効かせていきたい」と語った。

 (ファクトチェック取材班・池田哲平)

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