「互いに自分らしさ」 重度訪問介護 親子の距離に変化

1人暮らし お母さん、ありがとう 

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 「ちゃんと歯磨きした後はお菓子とか食べてない?」「うん、もう食べんようにしとるよ」
 諫早市のマンションの一室で母と子の会話が続く。西村彩子さん(仮名、45)と長男悠さん(仮名、23)。悠さんがこの部屋で1人暮らしを始めて半年。そこに至るまで曲折があった。
 悠さんは4歳の時、転んで頭を打った事故の後遺症で身体、知的、精神の障害がある。ゆっくりな会話や自力歩行はできるが、入浴や着脱衣などでは手助けがいる。その多くを母彩子さんが支えてきた。
 彩子さんは、仕事と息子の介護で、次第に肉体的にも精神的にも追い詰められていった。時々ショートステイを利用したが、悠さんは少しの物音でストレスを感じて不眠症になり、行動パターンが崩れると暴れることもあった。施設には頼りにくかった。
 昨年2月。諫早市内に福祉サービス付きのマンション「はるかぜ」ができた。彩子さんは、障害の程度が重い人を対象にした「重度訪問介護サービス」があることも知っていた。母は「転機だ」と思った。
 「私に何かあれば息子はどうなるのか…」。彩子さんはいつもおびえていた。悠さんはそんな母の胸中を察し、ふがいなさを感じていた。ある日、彩子さんは尋ねた。「1人暮らし、やってみる?」。悠さんは答えた。「うん、グループホームよりも良さそう。大丈夫な気がする」
 重度訪問介護サービスとして夜間も含め、ヘルパー数人が交代で月225時間、悠さんを介護している。朝夕の食材は彩子さんがマンションに届け、週末は実家で母子で過ごす。悠さんは最近、翌日に着る服を自分で準備できるようになり、何より、表情が柔らかくなった。彩子さんはそう感じている。
 「“普通”の親子の距離になって、お互いに自分らしさを持てるようになったのかもしれません」
 不安もある。重度訪問介護サービスの支給対象や、それを受けるための障害支援区分は定期的に見直される。彩子さんは「このサービスで私たち親子は救われた。障害の程度にかかわらず、それぞれが必要な支援を受けられるようになれば」と願う。
 昨年末、悠さんはゆっくりと母に語りかけた。「お母さん、俺ね。1人暮らしをして、良かったと思う。よく眠れとるけん、安心してね」。そして、こう続けた。「お母さん、単純に、ありがとう。これからも、よろしくね」
 2人の頬を涙が伝った。

「自立」を目指す彩子さん(左)と悠さん=諫早市幸町、はるかぜ