【参院議員は「県代表」か?】憲法43条に「全国民を代表」 平等重視で隣県合区も

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 参院議員の“カタチ”が中央政界で議論されている。憲法43条1項が定める国会議員像は「全国民の代表」で、選挙区の利害だけにとらわれない存在という解釈だ。一方、自民党が改憲で目指す参院選の合区解消は「参院議員が事実上、地域代表の性質を帯びる」との批判もある。熊本大法学部の憲法ゼミ「8限目」で、その是非を4年生と考えた。(渡辺哲也、並松昭光)

二つの最高裁判決…考え方が変遷

 国会と憲法の関係で避けて通れないのが、「1票の格差」。大都市への人口偏在が進み、当選者1人当たりの有権者が少ない地方の選挙区ほど1票の価値が増す現象だ。法の下の平等(14条)に基づき、憲法は「投票価値の平等」を求めているとされ、格差が拡大する度に選挙区間の定数調整が図られてきた。

 ゼミでは、参院選の1票の格差を巡る代表的な二つの最高裁判決を学んだ。

 まず、最大格差5・26倍の1977年参院選を「合憲」とした83年判決。大法廷は、人口に比例して議席を配分する衆院とは、選出方法や議員の性質が異なる「参院の特殊性」を根拠に「投票価値の平等は一定の譲歩、後退を免れない」と結論づけた。

 判決は、都道府県を単位とする参院選地方区(当時)について「(県を)構成する住民の意思を集約的に反映させる意義や機能を加味している」と指摘。事実上の都道府県代表の要素を加えたとしても「全国民の代表(43条1項)と矛盾しない」と寛容だった。

 これに対し、2012年判決は最大5・0倍の10年参院選を「違憲状態」と断じた。大法廷は、衆参両院の選挙制度が「同質的なもの」に改正された点や参院の役割が増したことなど社会情勢の変化を挙げ、参院選でも1票の平等に比重を置く姿勢を鮮明にした。

 83年判決以降、両院の選挙に政党本位の比例代表制が導入され、衆院で「格差2倍未満」の区割り基準も定着した。12年判決は両院の共通性を強調し、「参院で都道府県単位の選挙区を維持して投票価値の平等を図るのは、著しく困難」と国会に選挙制度の抜本的な見直しを促した。13年参院選(最大4・77倍)も、大法廷が14年に「違憲状態」と判決。その後、鳥取と島根、徳島と高知の4選挙区が二つに合区され、16年参院選から導入された。

 「最高裁の考え方が変遷してきたのは、なぜだろう?」。大日方信春教授の問い掛けに、報告班の学生が「ねじれ国会の経験が背景では」と答えた。

 「そうだね」。大日方教授は、民主党政権(09~12年)成立前など衆院と参院で多数派が異なった事例をたどり、「日本の二院制では、法案審議などは両院が同じ権限だから、ねじれると参院の役割が大きくなる。最高裁は、より適切に民意を反映する手法として1票の平等を重視したんだろう」と解説した。

【賛成】地方の声届けるため 【反対】国政担う議論が本職

 ゼミの後半は、参院議員に地域代表の性質も持たせるような選出方法を憲法に明記してよいか、をテーマに討論した。

 参院選の合区解消を目指す自民党は昨年3月の改憲条文案で、参院議員を改選ごとに都道府県から「少なくとも1人は選出できる」とした。その理由として、大都市への人口偏在に歯止めがかからない中、「今後さらなる合区が行われ、地方の声が反映されにくくなる懸念がある」と主張している。

 A班は自民案の趣旨に同調して「首都圏の議員が増え続けると、都会の課題ばかりに関心を寄せる国政になってしまうのではないか」と発表。東京の参院議員数を1とすると熊本が0・2、佐賀が0・08となるデータを示し、「改憲しなければ、その差は開く一方だ」と強調した。

 これに対し、B班は「経済政策や外交、防衛といった国政を担うのが、国会議員の本来の職責。地方と都市の議員選出数に差が出ても、不都合はない」と反論した。「県選出にこだわりすぎると、国会が地方の利益調整の場になってしまう」とも指摘。1票の格差是正が進まない点も危ぶんだ。

 D班も「国会が作る法律は、全国一律の運用。日本は国土が狭く、通信網や交通網も発達しているから、県外の議員でも住民の声は国政に届けられる。地域代表がいなければならない理由としては弱いのでは?」と補足した。

 B・D班の意見に異を唱えたのが、自民案に賛成の立場のC班。「国政といっても大規模災害や公害、米軍基地といった課題や、新幹線や高速道路などのインフラ整備は地域の利害が密接に絡む。他県の議員がどれだけ熱意を持って考えてくれるだろうか」と疑問を投げ掛けた。

 C班は二院制の在り方にも触れ、「英国や米国と比べて日本の衆院、参院は役割や選出方法が似通っている。この際、両院の違いをもっと明確にして、憲法に『参院議員は地域代表の役割も担う』と書き込んでみては」と提案した。

 しかし、B・D班は「全国民の代表という43条1項からすれば、違和感がある」と声をそろえ、「参院議員の役割を変えるなら、参院の国家機関としての位置付けや両院の権限に差をつけるべきか否かといった議論が必要ではないか」と反論した。

【もっと深く】二院制の在り方、踏み込んで

大日方信春教授

 憲法43条1項は、国会が「全国民を代表する」議員で組織されなければならない、としています。そう表現されたのは、なぜでしょう?

 中世・近世の身分制議会は貴族や聖職者、有産階級の代表で組織され、議員は国王に対する特権階級の利益を守る存在でした。このため、近代議会は「国民全体の利益を考えて自由に議論すること」を理念に掲げました。

 「全国民を代表」とは、国会議員が選挙区(有権者)からの命令に縛られない存在であるという意味です。全国民の視点に立って活動し、結果的に選挙区の意向に沿わなかったとしても、地方議員のようにリコールで解職できない法的効果があるのです。

 日本の国会は二院制(42条)を採用し、独立して自律した二つの審議体で構成されています。両院は同格で、法律制定権や国政調査権などの重要な権限に差はありません。各院の決定が異なった時には、法案の議決(59条2項)や内閣総理大臣の指名(67条2項)などで「衆院の優越」が規定されています。

 英国や米国も二院制です。日本が両院とも「選挙された議員」なのに対し、英国の貴族院(上院)は一部に世襲が残り、議会の決定は庶民院(下院)が優越しています。

 米国は、予算を含む全ての法案審議で上院と下院の権限が同じです。上院定数は各州2人。連邦制のため、上院議員は各州の外交官として州の権益を守る役割を兼ねています。日本とは権限や選出方法が随分違いますね。

 ところで、自民党は改憲条文案に「参院の合区解消」を盛り込みました。都道府県単位の選挙区を維持して選出議員に事実上、地域代表の性質を持たせる内容で、他の憲法規範との矛盾が指摘されています。43条1項との整合性をはじめ、「1票の格差」を巡る近年の司法判断の流れにも逆行しかねません。

 多様な意見を慎重に議論して国の統治に反映させるには、立法権の中にも権力分立が必要-。二院制本来の意義や機能が、日本で生かされていないとの指摘があります。「衆院のカーボンコピー」と揶揄[やゆ]されるように、比例代表制の導入で参院でも政党色が強まりました。

 改憲を議論するなら、参院議員の選び方といった小手先の対応にとどまらず、本質的な二院制の在り方や地方自治との関係についても腰を据えて考えるべきでしょう。

<メモ>

参院の選挙制度 1947年、全国区(100人)と都道府県単位の地方区(150人)でスタート。全国区は廃止され、83年参院選から比例代表制が導入された。その後、定数の是正や削減を繰り返し、2015年に鳥取と島根、徳島と高知が合区された。16年参院選の「1票の格差」は3.08倍。18年7月には、合区対象県の現職救済を狙う自民党の主導で、合区を維持しつつ定数を6増の248人とする改正法が成立した。