全国の公務員を笑顔にしたい!

ある総務省官僚の挑戦

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 北海道から沖縄県まで、全国から数百人の公務員が一堂に会するイベントがある。その名は「よんなな会」。中央官僚と地方公務員をつなぐ交流会だ。発起人は、総務省官僚で神奈川県に出向中の脇雅昭(36)。「やる気を見失いそうな人が来て『元気もらいました』って言葉をもらえるのが一番しっくりくる」。始まりは、ただの飲み会。今では累計5千人近くが参加するまで輪が広がっている。

 ▽幼稚園を〝中退〟

 宮崎県都城市出身で、6人兄弟の末っ子。「最初の学歴は幼稚園〝中退〟でした」。5歳の時、事業を営んできた父親に「幼稚園に通わせる価値を見出せない。辞めるなら、月6千円をお前に払う」と言われた。そのころの小遣いは、マッサージ1回で10円。辞めた。

 周りにいた友達がいなくなった。代わりに、近所のおばちゃんの井戸端会議に参加。大人に囲まれ少年時代を過ごした。同年代の友人と離れた寂しさの反動からか、人と話すこと、出会いの場が好きになった。

 ▽かっこいいおじさん

 大学4年の時、友人に誘われて参加した中央省庁の説明会が転機になった。総務省の40代ぐらいの男性職員が「一緒に日本を良くしていこう」と呼び掛けた。「かっこいい」。若者にまっすぐ向かう姿が印象に残った。

 将来を考えた時、帰省のたびに活力を失って見える地元も頭に浮かんだ。自分には何ができるのか。「離れた場所で経験を積むことも、宮崎のためになる」。2008年、総務省に入省した。

 ▽恩返し

 入省後まもなく、熊本県に出向した。時間のある限り、地域の祭りを訪ねたり、面倒見の良い同僚に紹介してもらったり、とにかく人に会った。いろんな生き方に触れ、刺激を受けた。「地域で生きている人の思いはさまざま。それを大事にしながら、自分に何ができるか考えることが大切」。人との出会いは気付きを与え、視野を広げてくれた。

 10年4月、総務省に戻った。周りには、全国の自治体から出向してきた職員が集まっていた。東京での経験を持ち帰り、いずれは各地で活躍するであろう若手たち。けれど、土日も仕事に追われ省内に閉じこもっているように見えた。

 「地域の課題に取り組むためには、いろんな人を巻き込む力も必要」。そんな考えを持っていたからこそ、もどかしかった。「東京に来ているなら、人とのつながりを広げる機会はいくらでもあるのに」

 ふと、熊本でお世話になった同僚が頭に浮かんだ。人と人をつなぐ手助けができないか。恩返しのつもりで、周りに声をかけて交流会を開いた。集まったのは60人ほど。それが原点になった。

2018年11月のよんなな会での脇さん

 ▽1%、志を上げる

 昨年11月、東京・渋谷ヒカリエのホール。よんなな会開催は12回目を迎えた。脇はステージに立つと聴衆に呼び掛けた。「僕らの仕事は、国や地域にとって大事な仕事。公務員の志や能力が1%上がれば、世の中もっと良くなるんじゃないか」

 この日、ゲストとして金融庁の遠藤俊英長官らが講演。参加者が地域の課題への取り組みをプレゼンしたり、地元の自慢の一品を持ち寄り、振る舞った。イベントが進行するにつれ、会場の熱気も増していった。

 会がきっかけの交流も広がっている。参加者がそれぞれの都道府県で「よんなな○○会」という交流会を開き、地域の人も交えた意見交換を行ったり、「医療」「スポーツ」など分野ごとの勉強会を開催したりしている。

 最近では、大手民間企業と連携して地方創生プロジェクトが始まるなど、形となった事例は少なくない。

獣医学関連の勉強会「よんななどうぶつ会」=よんなな会提供

 ▽とにかくやってみよう

 振り返れば、迷いの時期もあった。11年3月、父親の最期をみとった。急に人生の時間軸が見えたような気がした。「俺、死に向かって生きているんだ」。このままで良いのだろうか。周りと自分を比べ、もんもんとした。

 結局、いくら考えても、明確な答えは見つからなかった。「思いつくことを、とにかくやってみよう。そしたら、次が見えてくる」。そんな風に考えを切り替えた。

 最近、よんなな会の参加者から1通のメールが送られてきた。関東地方の自治体で働く、3年目の下水道局職員。「公務員になったと周りに話すと『安定なんだね』と言われて、悲しかった。感謝されることもないけど、誰かがしなくてはいけない仕事。会に参加して、目の前のことをもっと頑張りたいと思えた」

 最初は高い志を持っていても、目の前の仕事に追われるうちに、何のために仕事をしているのか見失ってしまう人がいる。「新しいことじゃなくて良い。周りに刺激を受けて、目の前のことを頑張る人が増えることが大事」。そんな自分の思いが反映されたように感じた。

 ▽笑顔のために

 よんなな会って何の価値があるのか―。人に聞かれると、全国の公務員が出会い、民間も巻き込んで、地域のために何かを生み出すプラットフォームにしたい。そう答えてきた。

 今はもっと単純な気がしている。「笑顔が生まれる場所。背中を押されて一歩踏み出す人が増えたら、世の中はもっと楽しくなりそう」(敬称略、肩書、年齢は取材当時、共同通信デジタル編成部=大友麻緖27歳)