議員の実情 2019 統一地方選アンケート(1)<なり手不足> 後継探し 重鎮も苦心

 今春の統一地方選を前に、長崎新聞社は長崎県内地方議員へのアンケートを実施し、議員活動に関する意識などを尋ねた。回答や取材を基に、地方議員が置かれた現状や課題などを紹介する。

 「さあ行こうか、野本さん」

 昨年12月。長崎県議会文教厚生委員会を終えた三好徳明(78)は、車いすの野本三雄(81)に声を掛けた。会派室に戻る野本の車いすを押し、エレベーターに乗り込む三好。だが、自身も高齢の身だ。膝の痛みなどに加え、物忘れも多くなってきた。親しい知人の名前が出てこないときがある。

 7期目のベテラン。「次は出馬しない」と昨夏から後継探しに動いた。地元の西彼時津町議に打診し、難色を示す周囲を説得して擁立が固まったと思いきや、本人の辞退で振り出しに。別の5人にも打診したが、うまくいかなかった。自民党県連幹事長、県議会議長を経験した県政界の重鎮でさえ後継探しに苦心し、議員のなり手不足を痛感した。前回県議選への立候補者は過去最少の60人。16選挙区のうち、無投票が過去最多の7選挙区に上った。

 「選挙に金がかかるし、ちょっと失策すればマスコミにたたかれる。権限も昔ほどない」。そんな思いも抱く。県学校給食会職員から県議補選に初出馬した50代前半、「落ちたら収入が無くなる」と不安に駆られた自身を思い起こす。

 長崎新聞社の議員アンケートで「地方議員のなり手不足を感じるか」と尋ねたところ、「感じている」「どちらかといえば感じている」は計66%を占めた。県議会と計21市町議会のうち18議会で「感じる」側が多く、「どういった方策が必要か」の質問には「行政を動かす権限の強化」「若者との対話」「選挙費がかかりすぎないようにすべきだ」「議員報酬アップ」などの声が寄せられた。

 打開策を講じた議会もある。町の人口が約2400人の北松小値賀町議会。2015年3月、月額18万円の議員報酬を満50歳以下に限り30万円に引き上げる条例案を可決したのだ。だが-。

 翌月の町議選。該当者は1人も立候補しなかった。「金目当てと見られ、かえって足かせだ」と複数の町民に指摘され、ある町議は「若い世代の政治への関心の薄さ」も実感。結局、条例は昨年3月、今春の町議選を待たずして廃止となった。全国で深刻化する地方議員のなり手不足。過疎化が進む離島を抱える本県はより切実といえる。

 一方で、「地盤」「看板(知名度)」などを持たずに立候補する人たちも少なからずいる。関東で生まれ育ち、03年に移住した小値賀町議の今田光弘(61)は同議会で唯一のIターン者。移住者を求めながら、味気ない町広報のあり方に改善を促してきた。初選挙は妻と乗り切り費用を抑えた。「町民の声をまちづくりに生かし、町長に直接意見できる立場は議員にならないと難しい」と語る。

 年の瀬。三好に進展があった。後継として元会社員の女性(36)の擁立が決まったのだ。かねて出馬を打診してきた人材ではなく、政治経験もない。だが、古里で政治家になろうと大企業を退職してまで関東から帰郷した女性を「そこまで情熱があるならば」と受け入れた。年明けの4日、共に県庁で会見に臨んだ三好は安堵(あんど)の表情で、こう力を込めた。「議員になってどんどん成長してほしい」
 =文中敬称略=

 ■調査方法■ 長崎新聞社が長崎県内全ての地方議会(長崎県議会、13市議会、8町議会)の全議員435人(当時)を対象に実施した。昨年10月末からアンケート用紙(回答は選択肢と自由記述)を配布し、同12月中旬までに回収。403人から回答(回収率92・6%)を得た。

なり手不足
なり手不足を感じる議員は、県議会でも8割を占めた=長崎県議会議場

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