【平成の地方自治 2019統一選】<6>人口減少 地域内経済循環へ「宝」を活用

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 田園に囲まれた島根県邑南町の空き家を改修し、昨年6月、野菜バイキングの店がオープンした。近くの産直市や農家から仕入れる新鮮な食材を使ったヘルシー料理でもてなし、遠方の客も引き付ける。同町の地域おこし協力隊員だった米倉一喜さん(28)が任期を終え、起業した。

 米倉さんは神戸市出身で、広島市の調理専門学校を卒業した。地元産品を売り出す協力隊に応募し、2015年に同町に移住する。住居を兼ねた店の家賃は月8万円。「広島なら月30万円程度。身の丈に合った起業がこの町だからできた」。町内で看護師をする妻と2人の男児との豊かな暮らしも気に入っている。

 ▽試行錯誤重ねる

 協力隊制度は都市から地方への移住を促そうと総務省が09年に創設し、自治体が農林水産業や集落支援を担う人材を雇用する。邑南町ではこれまで85人を受け入れ、3年の任期を終えた30人のうち14人が町内に定住。大半が飲食店や農業を営む。地元農家と交流しながら成長し、起業したメンバーは地元で食材を仕入れ、現役隊員の育成にも携わる。

 そんな好循環を生み出したのが、町農林振興課調整監の寺本英仁さん(47)だ。3町村が合併した04年以降、食と農をテーマにした町の「A級グルメ」構想を担当する。「町の産業を支える人材を育てること」を目標に重ねた試行錯誤が実を結んでいる。

 中国地方はかつて、高度経済成長の時代にあって中国山地から「過疎」という言葉を生んだ。平成時代もまた、若者の流出に歯止めがかからず、少子高齢化は加速した。農林業は衰退し、地域そのものを保てなくなった「限界集落」も顕在化した。核家族化などを背景に出生率の低下も進み、5年に1度の国勢調査では、国内人口が15年から減少に転じた。

 ▽消滅、大きな衝撃

 14年には民間研究機関「日本創成会議」が、40年の人口推計を基に全国の896市区町村が消滅する可能性があると公表。中国地方でも114市区町村が含まれ、大きな衝撃が走った。

 国はこれを受けて人口減少を食い止める戦略づくりを自治体に課し、「地方創生」の取り組みを始めた。移住者の受け入れや子育て支援など、地域の実情に合った自治体の事業を国が支援し、地域間競争を促した。提唱から4年が経過した現場ではしかし、成果が期待したほどではないとの見方がくすぶる。

 そんな中、邑南町は先進地として全国から視察が相次ぐ。13年度から3年連続で転入者が転出者を上回る「社会増」を達成した。ただそれでも、04年の合併時に約1万3400人だった人口は1万800人に減り、一筋縄ではいかない現実を物語る。

 中国新聞社が昨年実施した首長アンケートでは、東京への一極集中の是正策として6割以上が「企業の地方移転による雇用確保」を挙げ、最多を占めた。速効性を求める自治体トップの思いが透ける。

 邑南町の寺本さんの考えは違う。「企業誘致は撤退のリスクがあるし、地域に元々ある職場から人材を奪う。郷土の宝を生かし、地域内で経済が循環する仕組みをつくることが生き残りの道だ」。起業ラッシュの流れをつくった成果を信じ、地道に種を植え続ける。

空き家を改修したレストランで、今後の事業展開を話し合う米倉さん(左)と寺本さん