議員の実情 2019 統一地方選アンケート(2)<議員報酬> 毎月赤字“専業”に不安

 スケジュール帳の12月のページは忘年会で埋まった。2次会も入れると12月だけで約30件。1回当たり5千円とみても、結構な支出になる。長崎市議の平野剛(49)は副業をしていない“専業議員”。議員報酬だけでは毎月5万~10万円の赤字だ。不足分は共働きの妻の稼ぎに頼らざるを得ない。

 「税金で飲んでる」と言われるとつらいが、支援者の多くは昼間働いており、会うのは夜が多い。悩みや本音を聞くのはしらふでは難しい。そうやって聞いた声が政策づくりに役立つ、と思っている。

 長崎市の議員報酬は月額61万9千円。平野によると、住民税などを引けば手取り約51万円になる。このうち、支援者との交際費や冠婚葬祭費、自身のホームページの管理費など「議員活動に関係する支出」(平野)が約10万~15万円を占める。私生活では、子ども2人の授業料などに15万円かかる。市議になる前はサラリーマンや会社経営の経歴があるが、そのころと比べて今の方が家計は苦しい。かつては外車を乗り回していたが、今の愛車は20万円で購入した国産中古車だ。

 「子ども2人を大学に通わせられるかどうか…。こんな状態だと年金や自営業など、ほかに収入がある人しか立候補できなくなる」

 それでも長崎市の報酬は長崎県内で県議に次いで2番目に高い。最少の北松小値賀町は月額18万円。議員アンケートでは55%が「報酬が少ない」と回答し、「適正」(25%)や「報酬が多い」(5%)を引き離した。

 離島の多い長崎県特有の悩みもある。対馬市議の報酬は月額32万円。「島外視察をすれば交通費や宿泊費などで4、5万円かかる」(同市議の黒田昭雄)。黒田はこぼす。「(個人的な議員活動で)政策の先進地を訪れたり、見識を深めたりする機会が限られてしまう」

 議員は「老後」にも頭を悩ませる。かつては地方議員にも年金制度があったが、「優遇」との指摘を受け2011年に廃止。昨年、自民、公明両党は地方議員が厚生年金に加入できるようにする法案提出を模索したが、断念した。

 アンケートでも厚生年金について「必要と思う」「どちらかといえば思う」は計65%。「老後が不安」(諫早市議)、「財産のある人しか選挙に出られなくなる」(長崎市議)など切実な声が上がる。だが、保険料の半額は各自治体が負担する仕組みで、国は地方議員分の負担額を年間約200億円と試算。新たな公費負担には「市民の理解が得られない」(大村市議)との声もある。

 平野の選挙も4月に迫る。選挙に必要なリーフレットや名刺の一部を印刷するだけで口座から37万円が消えた。貯めても選挙のたびに全てを吐き出す。今回もそうなるだろう。

 平野は言う。「老後のことを考えると、怖い」
 =文中敬称略=

 ■調査方法■ 長崎新聞社が長崎県内全ての地方議会(県議会、13市議会、8町議会)の全議員435人(当時)を対象に実施した。昨年10月末からアンケート用紙(回答は選択肢と自由記述)を配布し、同12月中旬までに回収。403人から回答(回収率92.6%)を得た。

議員報酬は適正?
平野市議の政治団体の通帳。リーフレットや名刺の印刷など議員活動にかかわる支出が重くのしかかる(写真は一部加工)

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