五輪招致「秘匿文書」破棄!の経緯 竹田会長捜査の展開

1週間前、わずか7分間の「記者会見」で批判された竹田恒和JOC会長=2019年1月22日、JOC理事会

【特集】

 2020年東京五輪招致疑惑でフランス当局が贈賄容疑で正式に捜査を開始した日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長。22日のJOC理事会で「今後は手続きにのっとって粛々と疑惑を払拭する」と発言した。焦点は、①招致委とコンサル会社の契約を巡る経緯②トップである竹田氏の認識について、フランス当局がどう判断するかだ。実は、問題のコンサル会社が当時、招致委に送った国際オリンピック委員会(IOC)へのロビー活動に関する報告文書は破棄されている。共同通信は招致委など複数の関係者にあらためて取材、当時の経緯について取材した。竹田会長への捜査の展開は今後どうなるのか。

(共同通信=柴田友明)

  ▽事務局長「聴取なし」

 

 「聴取は受けていません」「(昨年)12月10日の竹田会長への聴取は知らなかった」。20年東京五輪招致委の事務局長だった樋口修資氏(元文科省スポーツ・青少年局長)は疑惑発覚後、フランス当局から事情聴取されていないと、筆者の取材に答えた。フランス当局への捜査共助として東京地検特捜部による聴取もこれまでなかったと語った。

 樋口氏は自らの行動についてJOC調査報告書(2016年)の通りであるとして、招致委が契約したシンガポールのコンサル会社「ブラックタイディングス」経営のタン・トンハン被告(虚偽報告罪でシンガポール地裁で有罪判決)と東京都庁で〝電話会議〟して契約内容や金額について話し合ったことを認めた。

 調査報告では、樋口氏は13年に大手広告代理店「電通」の担当者から、タン被告が北京の世界陸上招致で実績があり、国際陸連に関して「相応の影響力を行使し得る」立場と説明を受けたとしている。

 

 ▽「電通に勧められた」

 

 JOCが設置した調査チームのこの報告書は、コンサル会社について「実体のないペーパーカンパニーと断ずるのは早計」とJOCサイドに立った表現が目立つため、専門家から独立性や信用性に欠け「お手盛り」との厳しい批判も出ている。だが、招致委のメンバー、電通などの関係者34人に対してヒアリング内容を列挙しており、個別の証言については目を引く部分もある。

 招致委事務局長の樋口氏らは電通担当者の話を聞いて、タン被告のコンサル会社が「有能なアジアのコンサルタントであるとの確証」を得て、タン氏との契約締結を進める必要があると考えた、と証言している。その後、タン被告とのコンタクト、20年五輪のライバル都市のイスタンブールやマドリードへの誘致にタン被告がかかわることを「懸念」したため、成功報酬を含めた契約をかなり急いで行ったことが読み取れる。

 13年7月25日付で招致委事務局が稟議書を起案して、招致委理事長であった竹田会長に「電通が勧めている」「アジア、中東につながりがあるコンサル会社」と説明をして決裁を得たと調査報告に明記されている。その後、招致委の「みずほ銀行 新宿新都心支店」の口座からコンサル側の口座に送金されたという。

 

 ▽「破棄」の理由

 

 AFP通信電子版は1月20日、昨年12月10日のフランス当局による竹田会長の「供述文書」を得たと報じた。1月22日にはストレーツ・タイムズ電子版(シンガポール紙)もこのニュースを転電して、これまでの東京五輪招致疑惑についてまとめている。

 それによると、IOC委員に強い影響力を持っていた国際陸連前会長ラミン・ディアク氏の息子パパマッサタ・ディアク氏と懇意だったタン被告の双方の関係について「全く知らなかった」。コンサル会社の選定については自らかわっておらず、「電通が推薦した」とフランス当局に説明したとされる。これは、JOC調査報告とも合致する。竹田会長は一連の疑惑について一貫して同じ説明をしてきたようだ。しかし、これまでディアク氏親子やタン被告を捜査してきたフランス当局の予審判事は竹田氏側の説明について疑いを強め、さらに正式な捜査が必要と判断したことになる。

 筆者はJOC調査報告でもっとも気になった点は、問題のタン被告のコンサル会社から毎月招致委に送られた文書が破棄されていることである。当時のIOC委員の具体的な動向が記載されているため、「秘匿性」が求められたためと理由を挙げている。これらの文書情報は招致委事務局長の樋口氏から竹田会長に「共有された」との表現もある。

 JOCが設置した調査チームは破棄した経緯についてこれ以上の詳細は語っていない。ただ、招致委専務理事だった水野正人氏(ミズノ元会長)の元に、「(東京五輪)招致後に作成されたとおぼしき文書を残されているが…特段の有用性のある内容のものではない」とわざわざ調査報告の脚注部分に断り書きを入れている。

 だれが何の秘匿性があるか判断したかは明確にせず、結果的に報道で指摘されてきたコンサル会社の「立ち位置」もはっきりさせないように見える。34人が証言した内容を取りまとめた文書はその不自然さが、逆に隠れた事実を物語っているような仕上がりだ。

 フランス当局が招致委の事務局長に対して依然聴取の対象にしていないのは、その必要性がないと考えているかもしれない。タン被告のコンサル会社とディアク氏親子への捜査はロシアのドーピング、リオ五輪などの誘致疑惑で相当に尽くされており、今回も立件に自信があるからこそ正式捜査に踏み込んだように思える。(共同通信=柴田友明)

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