10回目を迎えた「座・高円寺ドキュメンタリー フェスティバル」は戦争の記憶と記録を総力特集

10回目を迎えた「座・高円寺ドキュメンタリー フェスティバル」は戦争の記憶と記録を総力特集

今年10回目を迎えた「座・高円寺ドキュメンタリー フェスティバル」が、2月6日(水)~11日(月)まで東京・杉並区にある「座・高円寺2」で開催されます。テレビ、映画の枠を超えた作品が上映され、それらの作品に造詣が深いゲストが参加するドキュメンタリー映像の祭典。節目の今回は、開催期間も1日増やして6日間で、「戦争ドキュメンタリー ―記憶と記録―」と題した記念特集が行われます。“戦争の世紀”とも言われた20世紀に続き、21世紀の現在も世界各地で紛争や武力衝突は絶えません。そんな中、ドキュメンタリーは“戦争”をどのように捉えてきたのかを考え、時代や地域を超えた18作品が厳選したとのこと。また、全てのパートで上映の後にゲストトークがあるのが、このフェスならでの楽しみ。松江哲明さん、森達也さん、綿井健陽さん、菊地成孔さん、吉岡忍さん、井浦新さんなど幅広いゲストが連日登場します。

今回、テレビ・ドキュメンタリーは5作がラインアップされ、7日(木)には「NHKスペシャル『なぜ隣人を殺したか~ルワンダ虐殺と煽動ラジオ放送~』」(1998年放送)が上映されます。1994 年に起きたアフリカ・ルワンダの多数派フツ族が少数派のフツ族約80万人を虐殺したという悲劇。その虐殺はラジオ放送が大きく影響したとされ、メディアがもたらすリスク、プロパガンダを示唆する内容は今に通じるものがあります。歴史ある国際番組コンクールのイタリア賞でグランプリを受賞したほか、教材としてもしばしば視聴されてきました。番組を制作した五十嵐久美子ディレクター(ドキュメンタリー ジャパン)はこの作品の活躍などで、同年度の放送ウーマン賞を受賞しています。

8日(金)はメ~テレ制作「防衛フェリー~民間船と戦争~」(2017年放送)が登場。平成29年度文化庁芸術祭 テレビ・ドキュメンタリー部門大賞をはじめ第55回ギャラクシー賞 報道活動部門 大賞など数々の賞を総なめにした番組です。民間のフェリーを例に、新しい安保法制の下で“いつの間にか”変化していた自衛隊の周辺を丹念に取材し、驚くべき事実を突きつけました。日々のニュースから「戦争は過去にあらず」という言葉をスタッフに投げかけた村瀬史憲プロデューサーも上映後のトークに登壇します。

9日(土)は、貴重なアーカイブとの再会。TBS制作「諸君!スペシャルだ『砲弾の炸裂するなかで~ベイルート戦場の街~』」(1984年放送)は、当時の日曜夜8時台で半年間だけ放送された情報番組からの1本です。15年にわたるレバノンの内戦で破壊し尽くされた首都ベイルートの実情を、キリスト教派の陣営に栗本慎一郎氏が、イスラム教派の陣営に立松和平氏が潜入し、それぞれレポートしています。NHKのアナウンサーからフリーに転じた森本毅郎氏がベイルート沖に停泊中の米軍艦船ニュージャージーに乗り込んでいます。

10日(日)は本フェスティバルでも最も人気を集める是枝裕和監督のパート。今回上映されるのは、フジテレビ「NONFIX シリーズ憲法~第9条・戦争放棄『忘却』」(2005年放送)で、日本国憲法をテーマに各社が競作した番組です。5回にわたって憲法を特集したシリーズのうちの一作を是枝監督が担当。プロデュース、ディレクター、撮影、ナレーションと、一人4役を務めています。是枝監督の個人史が色濃く反映された異色の構成は、当時以上に興味深いものです。ジャーナリスト・金平茂紀氏とのトークも今から楽しみです。

また、同日上映される「未帰還兵を追って<タイ編/マレー編>」(1971年)は、是枝監督に先駆けてパルム・ドールを二度受賞した巨匠・今村昌平監督の映画です。実はこの作品、東京12チャンネル(現テレビ東京)「金曜スペシャル」枠で放送され、当時の政府見解では存在しないとされていた旧日本兵を捜し出し、大きな反響に。今村監督はその頃、ドキュメンタリーに傾倒しテレビの演出も務めていたようです。4年後には、タイ・ビルマ国境地帯を訪ねる続編も同枠で放送されています。

11日(月)、上映のトリを飾るのはNHK「ETV特集『戦場で書く~作家 火野葦平の戦争~』」(2013年放送)。1年前に「インパール作戦従軍記」が出版された作家・火野葦平。その元となった従軍手帳が明らかになったのを機に番組化、彼の手帳を読み解きながら作家としての苦悩に迫りました。この番組を担当した渡辺考ディレクターも後に「戦場で書く 火野葦平と従軍作家たち」を執筆。戦後になって評価が一変した火野にこだわり、地元で長く取材を続けてきました。トークではその渡辺ディレクターと田原総一朗氏が相まみえますが、両者の熱い語りでヒートアップすること間違いなし。表彰式・閉会式前の最終パートは、このイベントのクライマックスにふさわしいトークバトルになることでしょう。

上記テレビドキュメンタリー以外にも、本イベントのオープニングを飾る277分の長編映画「東京裁判」(1983年)の特別上映ほか、亀井文夫監督による記録映画黎明期の名作「戦ふ兵隊」(1939年)から現在も上映が続いている三上智恵・大矢英代両監督による「沖縄スパイ戦史」(2018年)まで、時代を超えたドキュメンタリー映画の名作が連日上映されます。

[座・高円寺]ドキュメンタリー フェスティバル10
第10回記念特集 戦争とドキュメンタリー ―記憶と記録―


日時:2月6日(水)~11日(月)
会場:「座・高円寺2」(杉並区立杉並芸術会館)
杉並区高円寺北2-1-2 地下2階

[テレビドキュメンタリー作品]

ディレクター/五十嵐久美子 プロデューサー/伊吹淳
*1994年、アフリカ・ルワンダで起きた少数派フツ族の大虐殺には、ラジオ放送が深く関わっていた。引き裂かれた家族を通して、凄惨な状況に迫る。
※7日(木)午後7:00上映 ゲスト/菊地成孔 伊吹淳 五十嵐久美子

「防衛フェリー~民間船と戦争~」
■メ~テレ 2017年11月放送
ディレクター/依田恵美子 プロデューサー/村瀬史憲
*2017年防衛省が民間フェリーと船員を運用できる制度をスタートさせた。それは、戦時中に漁船などの民間船が「徴用」され、その死亡率は海軍の倍を数えた暗い過去と重なる。
※8日(金)午後4:15上映 ゲスト/吉岡忍 村瀬史憲
©名古屋テレビ

「諸君!スペシャルだ『砲弾の炸裂するなかで~ベイルート戦場の街~』」
■TBS 1984年4月放送
ディレクター/牧哲雄 御牧賢秀
*15年にわたる内戦で破壊し尽くされたレバノンの首都・ベイルート。キリスト教とイスラム教の2つの勢力に分断された街の東西に、栗本慎一郎と立松和平が潜入し、人々の姿をリポートした。
※9日(土)午前11:00上映 ゲスト/足立正生

「NONFIX シリーズ憲法~第9条・戦争放棄『忘却』」
■フジテレビ 2005年5月放送
演出/是枝裕和
*1962年生まれの是枝裕和の生い立ちなど個人史の旅と、番組制作に至るまでの半年間の、実際に経験した二つの旅で構成。様々な土地を訪ねながら、戦争の記憶と忘却を考えた。
※10日(日)午後4:15上映 ゲスト/是枝裕和 金平茂紀

ETV特集「戦場で書く~作家 火野葦平の戦争~」
■NHK Eテレ 2013年12月放送
ディレクター/渡辺考 制作統括/塩田純
*作家・火野葦平が日中戦争から太平洋戦争の時代に戦場で記した20冊におよぶ従軍手帳をもとに、彼の軌跡をたどり、作家と戦争の関わりを考える。
※11日(月)午後6:00上映 ゲスト/田原総一朗 渡辺考
©NHK

◇上記以外の上映映画
[特別上映]「東京裁判」(1983年 監督/小林正樹)、「戦場のフォトグラファー ジェームズ・ナクトウェイの世界」(2001年 スイス 監督/クリスチャン・フレイ)、「Little Birs ―イラク戦火の家族たち」(2005年 監督/綿井健陽)、「沖縄スパイ戦史」(2018年 監督/三上智恵・大矢英代) 、「戦ふ兵隊」(1939年 監督/亀井文夫)、「沖縄のハルモニ 証言・従軍慰安婦」(1979年 監督/山谷哲夫)、「ベトナムから遠く離れて」(1967年 フランス 監督/アラン・レネほか)、「蟻の兵隊」(2005年 監督/池谷薫)、「人間爆弾『桜花』―特攻を命じた兵士の遺言―」(2014年 フランス 監督/澤田正道)、「ヒロシマ ナガサキ」(2007年 アメリカ 監督/スティーブン・オカザキ) 、「ミリキタニの猫《特別篇》」(2006年 アメリカ・日本 監督/リンダ・ハッテンドーフ)、「未帰還兵を追って<タイ編/マレー編>」(1971年 監督/今村昌平)、「アルマジロ」(2010年 デンマーク 監督/ヤヌス・メッツ)

◇ゲスト(順不動)/松江哲明(映画監督)、中島岳志(大学教授)、森達也(映画監督・作家)、 綿井健陽(上映作監督)、三上智恵(上映作監督)、菊地成孔(ミュージシャン)、伊吹淳(上映作プロデューサー)、五十嵐久美子(上映作ディレクター)、伊勢真一(映画監督)、山谷哲夫(上映作監督)、安岡卓治(上映作助監督)、吉岡忍(ノンフィクション作家)、村瀬史憲(上映作プロデューサー)、諏訪敦彦(映画監督)、足立正生(映画監督)、池谷薫(上映作監督)、小林三四郎(上映作配給)、長谷川和彦(映画監督)、石内都(写真家)、天願大介(映画監督)、是枝裕和(映画監督)、金平茂紀(ジャーナリスト)、井浦新(俳優)、田原総一朗(ジャーナリスト)、渡辺考(上映作ディレクター)

□コンペティション部門入賞作品上映

2月11日(月)
午前10:00 入賞作品上映
午後 8:40 表彰式(大賞作品発表)
9:10 終了予定

チケット:前売り券1300円 当日券 1500円(全席自由)
入場は先着順。満席の場合は、入場できないこともあります。
無料参考上映作品は無料で見られますが、上映後のトークは有料

上映スケジュールほか、詳細は下記HPでご確認ください。
HP:http://zkdf.net/

Y・I

株式会社東京ニュース通信社 コンテンツ事業局担当
1988年入社。30代から放送局担当記者に転身、後にTVガイド編集部。同副編集長、デジタルTVガイド編集長ほか番組表・解説記事製作の部門長、西日本メディアセンター編集部長などを歴任。全国各地で放送されている質の高いドキュメンタリー番組と、精魂こめて地道に番組作りに勤しむ制作者の姿に注目してきた。人生の糧となるドキュメンタリーの名作・力作の存在を、より多くの視聴者に知らせるべく、日々ネタ探しの歩みを続ける。

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