車夫になったボランティア 「恩返しできたら」真備の町走る

2018年12月14日、岡山県倉敷市で撮影  岡山県倉敷市の美観地区で人力車夫として働く佐々木傑さん

 西日本豪雨の被災地・岡山県倉敷市真備町地区に根を下ろしボランティアを続ける若者がいる。千葉県船橋市の大学3年、佐々木傑(ささき・すぐる)さん(22)は人力車夫として働きながら復興支援に汗を流している。日々変わりゆく被災地を目の当たりにし、「真備のこの先を見届けたい」と意気込む。

 千葉県船橋市出身。大学生活になじめず、大学2年の終わりから1年間休学し、フィジー島への留学や、5~6カ国を一人で旅した。復学したものの、「大学はもう退学しよう」。そう思っていた。

 昨年7月、実家でテレビを見ていると、水に漬かった真備町地区の映像が目に飛び込んできた。何もできない自分がもどかしい。

 SNSで「旅人こそ被災地へ」というボランティア募集の言葉を見て、これまで旅先で助けてもらったことを思い出し、「恩返しできたら」という気持ちで現地で飛び込んだ。

 真備町地区は河川の氾濫や堤防決壊で広範囲が浸水し、5千棟以上が全半壊。田んぼの上に乗用車が転がる惨状に衝撃を受けた。夢中で復旧作業を手伝い、車中泊やテント泊を重ねた。2週間の滞在予定が、気づけば2カ月たっていた。

 猛暑の中で連日担当した住宅が片付いた時、住人女性に「本当にありがとう。頑張ります」と声を掛けられ、言葉の重みを痛感。「この町がどうなっていくか見届けたい」との思いが膨らんだ。

 昨年10月に休学届を提出し、真備町地区に戻ってきた。現在は集会所で他の長期ボランティアと一緒に寝泊まりしながら生活している。

 白壁の土蔵が立ち並ぶ倉敷市の美観地区で観光人力車を引くかたわら、週に2、3回は真備町地区に入って被災した家屋などの汚れた壁や床板を剥がす日々だ。

 「この人の家に行ってと言われたらすぐに行けるくらい、道も覚えちゃいました」と佐々木さんは話す。

 車夫の仕事は想像以上に体力勝負。太ももの裏が痛くなったり、お客さんに乗ってもらうための営業も大変だ。

 それでも真備での活動を走りながら伝えると「頑張って」と声をかけてもらうこともある。

 豪雨から半年。再建された住宅や、営業を再開する店舗は増えたが、建物の解体が進んで更地が目立ち始めた。

 倉敷市社会福祉協議会によると、多い時に1日2千人以上いたボランティアも今は1日100人に満たない。

 「ボランティア需要は終わったと言う人もいるが、そうじゃない」と佐々木さん。特に若者の参加が少ないことを懸念している。「若い人が来るだけで喜ばれるのでぜひ来てほしい」と話した。
(共同通信=岡山支局・寺田佳代)

2018年12月14日、岡山県倉敷市で撮影  岡山県倉敷市の美観地区で人力車夫として働く佐々木傑さん

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