トランプ批判、壁に投影 抗議続ける日本人女性

 トランプ米大統領への抗議活動を続ける日本人女性がいる。東京都足立区出身の山平宙音(やまひら・そらね)さん(38)。映像作家ロビン・ベルさん(40)と共に、首都ワシントンでトランプ家が経営するホテルの壁に批判の言葉を投影。毎回異なる短い文言を映し出し、賛同を呼び掛ける。「極端な人格の持ち主が大統領に選ばれて驚いた。職権乱用で不正を働いている可能性が高い」と訴え、自らの活動を「『王様は裸だ』と主張しているのに似ている」と評しながら、今日も通りに立つ。

米首都ワシントンのトランプホテルの壁に批判の言葉をプロジェクターで投影する山平宙音さん=2018年12月12日(共同)

 「外国の干渉を歓迎」「米国の外交政策はここで売り買いされている」。昨年12月中旬、中心部のトランプ・インターナショナル・ホテル。帰宅ラッシュ中の午後7時、文字が白壁に浮かび上がった。見上げてニヤリと笑う通行人。スマホを掲げて写真を撮る人も多い。反対側の歩道にプロジェクターを設置した山平さんらも冷静な顔で映像を撮り、インターネット上にアップする。次々と入れ替わる言葉。「サウジアラビアは米国にロビー活動するため、ここに500泊分予約した」。トランプ氏と、記者殺害への関与が疑われるサウジのムハンマド皇太子の写真付きだ。

 大統領でありながら家族経営のホテルを通じて外国政府から利益を得ているのは憲法違反とも指摘されるトランプ氏。山平さんは「壁に投影した写真1枚で問題が説明できれば、憲法違反について長い文章を読まない人にも重要さが伝わる」と意気込む。

 15分後、ホテルの通報を受けたパトカーが到着した。「責任者はいますか?」と警官。トランプホテルへの投影だけで既に数十回。交渉に慣れた仲間が対応すると、警官らは何も言わずに引き上げた。「犯罪ではないことを確認してやっている」とベルさん。開始から30分で投影は終わった。

 米国人との離婚を経て首都郊外で和食シェフなどをしていた山平さんは、5年前にベルさんと知り合い交際。2人の日本旅行中、偶然トランプ氏も訪日した。安倍晋三首相と魚に餌をやる写真を靖国神社の柱や地面に映し「この2人に気をつけろ」と訴えた。ただ「ホワイトハウスは警備が厳しくてまだ実現していない」とベルさんは苦笑する。

米首都ワシントンのトランプホテルに批判の言葉を投影する様子を見る山平宙音さん(左)とロビン・ベルさん=2018年12月12日(共同)

 山平さんの父は04年に足立区でひき逃げ事故に遭い死亡したフォーク歌手山平和彦(やまひら・かずひこ)さん=当時(52)、秋田県出身。1970年代に活躍した父は権力者への反感を訴え「放送禁止歌」など社会性の強い楽曲で知られた反骨精神の持ち主だった。「突然の死の後、父の思いについて考える機会が増えた。抗議への参加は自然の流れだった」。政府への抗議は民主主義に必要な行動だと信じている。2015年に米国で同性婚が認められたのも「長い長い市民運動の結果だった」。

 映像を作って20年というベルさんは、格差に反対する2011年の草の根デモ「ウォール街を占拠せよ」を機に、プロジェクターを持ち運び可能な組み立て式にして屋外で投影する抗議活動を開始。「あらゆる政府機関で投影してきた」が、16年の大統領選以降、矛先はトランプ氏にも向いた。ホテルの利益相反にとどまらず、税務申告書の非公開を貫き、ホワイトハウスの要職を身内で固め、嘘ばかり並べ立てるトランプ氏。自分の好きな意見しか目にすることがないソーシャルメディアの世の中でも、視聴率のために極端な意見ばかりが取り上げられるマスメディア環境の中でも、2人は民主主義を信じる地道な活動がトランプ氏ら権力者の不正防止を導き、健全な政治の実現につながるとかたくなに信じている。

米首都ワシントンの事務所でトランプ大統領への抗議活動について語る映像作家のロビン・ベルさん=2018年12月12日(共同)

 トランプ支持者から罵詈(ばり)雑言を浴びても気にしない2人。大声で異見を唱えれば反対されるのは分かっている。「その居心地の悪さは民主主義に必要な、税金のようなもの」。同性婚しかり、大麻解禁しかり。個人の思いから法律が変わった例は多い。「未来に希望を持ち行動する。自由を守り大切にするために」今夜も2人は壁に思いを投影する。物理的な危害を与えるつもりは一切ない。だが「トランプ氏と政権はかつて例を見ないような数々の不正を働いている可能性がある」ということを世界やメディアに知ってもらい「注意深く監視していてほしい」と願っている。(ワシントン共同=遠藤幹宜)

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