今季は二塁専念? それでも大きな西武外崎のユーティリティ選手としての価値

西武・外崎修【写真:荒川祐史】

外崎は内外野の守備を平均以上にこなせるユーティリティ選手

 昨季、パ・リーグ優勝を果たした西武だが、このオフは菊池雄星、浅村栄斗といった主力選手の放出を余儀なくされた。今季、そんな危機的状況となったチームを引っ張る活躍が期待されるのが外崎修汰だ。外崎は西武だけでなく、稲葉篤紀監督が率いる侍ジャパンにおいての期待も大きい。

 なぜ外崎が注目されるのか。その理由のひとつは外崎が内外野の複数ポジションを守ることができる点にある。プロ入り後の守備位置の変遷とともに外崎の守備成績を振り返ってみよう。守備成績は打球を方向、距離、性質、強さごとに分類し、それぞれの打球に対するアウト獲得状況から守備貢献を得点の単位に換算したUZR(Ultimate Zone Rating)で見ていく。

ユーティリティ・外崎の各ポジションでの守備力

 2015年、ルーキーの外崎が主に守ったポジションは遊撃だった。当時西武は遊撃手を固定できておらず、外崎にも1軍でのチャンスが巡ってきた。外崎の遊撃でのUZRは2015、2016年をあわせて-5.6。同じイニングを守った平均的な遊撃手と比べて5.6点多く失点を増やしたという、やや低い値だった。またこの値は321イニングとシーズン全体の4分の1程度の出場によるものだ。フルシーズンの目安である1200イニングに換算するとUZRは-20.9。シーズンを通して遊撃を任せるとかなりの失点増が予想されるレベルの守備力だった。

 2017年、遊撃手としては厳しい状況にあった外崎に転機が訪れる。源田壮亮が入団し、完全に遊撃に定着したのだ。さらにチームが外野の戦力に不安を抱えていた状況も重なり、外崎は左翼、右翼での出場機会が増加。遊撃を守ることはなくなったが、以前から守っていた二塁、三塁で出場する機会は保ち、内外野を守ることができるユーティリティ選手となった。

 外崎の各ポジションでの、4シーズン合計UZRを見てみると、遊撃以外の4ポジションではいずれも平均前後か、平均を上回る値を残している。右翼では4シーズン合計で-3.6とやや低いものの、1000イニング以上を守ってこの値は平均レベルと考えてよい。

 この4ポジションの中で高い守備スキルを要するのが二塁だ。これを153イニングと機会は少ないながらも、UZR1.4と平均を上回るレベルで守っていることは外崎が高い評価を得るひとつの要因だろう。

ユーティリティ選手として破格の打力、昨季も三塁・中村の不調をカバー

 ただこのように内外野を一定のレベルで守ることができる選手はNPBでも決して少なくはないはずだ。外崎がそうした選手と大きく異なるのは、ユーティリティ選手としては破格の打力を有している点にある。

 出塁率と長打率を足した値で打者の総合的な攻撃力を表すOPS(On-base plus slugging percentage)で見ると、昨季の外崎の値は.830。これは三塁、左翼、右翼といった高い打力が求められるポジションでもリーグ平均以上、二塁手としてはチームの大きな武器になるレベルの数字である。

 昨季、複数ポジションを守ることができ、なおかつ高い打力を有する外崎の長所がチームを救った時期があった。開幕直後、西武はスタートダッシュには成功したものの、主砲・中村剛也が極度の不振に陥り三塁手の攻撃力が低迷。中村は調整のため、4月22日に登録を抹消されることとなり、空いた三塁には右翼で出場していた外崎が入ることになった。

 イラストは昨季の西武三塁手の直近10試合ごとの成績を集計し、その期間のOPSの推移を表したものだ。シーズン20試合目終了時点であれば、11~20試合目の成績を集計している。このグラフの場合、その時点での三塁手の打撃成績の波を表していると考えてもらえばよい。

 開幕直後、西武の三塁手のOPSはリーグ三塁手の平均を大きく下回り推移していた。しかし中村が抹消され外崎の三塁手としての出場機会が増えた4月後半からグラフは徐々に上昇。外崎自身も調子を上げ、中村不調の穴をふさぐことに成功した。

西武・三塁手の直近10試合ごとのOPS推移

 その後、中村は6月1日に復帰すると徐々に調子を取り戻し、7月以降は25本塁打を放つ素晴らしい活躍を見せた。外崎がいなかった場合、チームはいつになるかわからない中村の復調を待つか、大きくレベルの下がる三塁手を起用することになっていただろう。外崎のユーティリティ性により、三塁手に生じた穴を最小限にとどめることに成功したのだ。

 昨季、西武が序盤に良いスタートを切ることができた要因は、山川穂高などが打力で他球団に圧倒的な差をつけたことが大きい。しかしこのように他球団に差をつけられないよう、弱点をふさぐ選手起用も快進撃を支えた。

二塁手スタートが濃厚だが、ユーティリティとしての価値は変わらない

 西武はこのオフ、浅村が退団したため、今季外崎は二塁手として起用されることが濃厚なようだ。これによりチームは二塁手の能力を大きく落とさずに済むが、代わりに昨季外崎が守っていた外野のポジションが空いてしまう。浅村退団のダメージは避けられない。

 だが二塁に固定されるかという状況でも、外崎がユーティリティ選手である価値は失われない。もし外崎が外野を守ることを完全に辞め、二塁に専念するのであれば、西武は空いた外野のポジションに控え外野手を繰り上げ出場させるという選択肢しかない。しかし外崎が外野を守れることで、二塁に良い選手が現れれば外崎を再び外野で起用する選択肢をとることができるのだ。

 NPBはMLBに比べ出場選手登録枠が広く、ベンチ入りできる野手が多いため、各ポジションに専門的な野手をベンチ入りさせることができる。このような事情もありこれまでユーティリティ選手が脚光を浴びることは少なかった。しかし今回紹介したようにこうした選手を保有することによるメリットはNPBでも大きい。外崎の存在により今後数年、西武はより強力なチームを編成しやすい状況をつくることができるだろう。(DELTA)

DELTA
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1・2』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta's Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。

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