新女王

 何なの、これ…。不運な失点にしゃがみ込んでしまった。ラケットを叩(たた)きつけるようなそぶりも見せた。「しょんぼり」を絵に描いたような表情。一度は誰もが確信した快挙がするりと遠のいたかに見えた第2セットの終わり▲だが、試合が振り出しに戻った第3セット、彼女は自らのハートもきちんと振り出しに戻していた。先に相手のサービスゲームを奪うと、持ち前の強烈なサーブと果敢なストロークで、そのまま流れを渡さなかった▲テニスの全豪オープン女子シングルスで見事な初優勝を飾った大坂なおみ選手。同時に日本選手では男女通じて初めてとなる世界ランキングの頂点に立った▲ラケットを振るたび、点数が動くたびに、見ている私たちまで1ポイントの重みを思い知らされるような緊迫したゲームは、「幼児並み」と自虐的に語っていたメンタルの弱さを克服して見せた2時間半だった▲大勢の前で話すのは苦手なのだ、と前置きしたスピーチでは対戦相手への敬意を最初に語り、観客への感謝を述べ、そこでちょっと詰まって…謙虚で初々しい21歳の新女王▲「メモを読んだんだけど、何を話すか忘れちゃいました」-大丈夫、ご挨拶(あいさつ)はこれから上手になればいい。スピーチの機会はきっとこれから何回も、おそらくは遠からずやって来る。(智)

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