「生きる意味、奪えない」 平塚盲学校元教諭が本出版

 県立平塚盲学校と同平塚ろう学校で、30年以上にわたって教師を務めてきた松浦恵子さん(71)=平塚市中原=が、これまでの教員生活を一冊の本にまとめた。障害のある子どもたちと向き合ってきた日々を描く一方、19人もの入所者の命が奪われた相模原市の障害者施設での殺傷事件にも触れた。「人が生きる意味を他人が判断することはできない」。著書には松浦さんの思いが込められている。

 昨年12月、「白い杖(つえ)の先に」(神奈川新聞社刊)を出版した松浦さんは愛知県生まれ。1970年に神奈川県教諭に採用され、平塚盲学校に新人教師として赴任した。

 そこでの体験は驚きに満ちたものだったという。

 ずっしりと重く一点を打つのも力がいる点字盤を操る子どもたち。わずかな訛(なま)りも聞き分ける、研ぎ澄まされた耳。見たことがない色について「太陽は熱いから赤は熱い感じ、青は明るかったり冷たかったり」と表現する感性-。

 目の不自由な子が自らの可能性を広げるための創意工夫に、「見えないことは不便だけど不幸ではない」という米国の社会福祉事業家ヘレン・ケラーの言葉を毎日のように実感した。本では、こうした学校での日々が松浦さん自身の自問自答や試行錯誤を交えながら物語仕立てでつづられる。

 学校での体験以外にも、平塚盲学校の創立者として知られる全盲の故秋山博を取り上げた。松浦さんが退職後、市民講座のテーマとして扱った秋山の生涯を丹念にたどり、学校の沿革をひもとくことによって、近代日本の障害者教育も描き出していく。

 2016年に相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」で起きた殺傷事件についても書いた。ナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の舞台となったアウシュビッツ強制収容所跡を訪問した経験がある松浦さんは、「これはナチスだ」と強い衝撃を受けたという。

 事件後、やまゆり園に入所していたかつての教え子の安否を気遣い、消息を尋ね歩いた。幸い無事が確認できたが事件に潜む闇を思うと、心は決して穏やかではない。

 「人が生きる意味を他人が判断し、抹殺する権利など誰にもない。『健やかな命に生きる』権利を誰も奪うことはできないのだ」。執筆を大きく後押ししたという事件への憤りが、著書には刻まれている。

 教員生活や平塚盲学校の歴史、そして事件を振り返ることで、松浦さんは「個々を認め、一緒に生きる地域社会は大切。そうした共生の意識が少しずつ広がってほしい」との思いを強くしたという。2020年東京五輪・パラリンピックが「大きな契機になれば」と期待を寄せている。

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 本は四六判、128ページ、税込み1080円。書店、新聞販売店で扱っている。問い合わせは神奈川新聞社出版メディア部電話045(227)0850。

「白い杖の先に」の本を手にする松浦さん

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