<社説>軍属の範囲見直し 実効性のなさ浮き彫りに

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 大山鳴動してネズミ一匹とはこのことである。 2016年4月に県内で起きた米軍属女性暴行殺人事件を受け日米両政府は17年1月、地位協定の補足協定を結んだ。軍属の範囲や基準を見直すものだ。ところが、見直し作業を経て、軍属の要件を満たさない可能性のある従業員はたった10人だった。大部分の軍属には引き続き日米地位協定上の特権が残る。

 裁判権などの特権が地位協定によって認められた国内の米軍属は18年10月末時点で1万1857人に上る。政府は補足協定について「(地位協定の)運用改善とは一線を画し画期的だ」と自賛したが、皮肉にも地位協定の対象にならない人の少なさを浮き彫りにした。

 日本政府が補足協定を結んだのは、曖昧だった軍属の対象を明確にすることで、米軍による軍属の管理が強化され犯罪抑止効果につながることを期待したからだ。対象外の可能性があるのがたったの10人では、実効性に乏しいと言うほかない。

 国際的に見ても異常である。軍属のうち、米政府が直接雇用していない「請負業者(コントラクター)」の従業員は2224人おり、地位協定で守られている。

 米軍がドイツやイタリアなどへの駐留条件を定めたNATO地位協定は、米軍属の範囲を米政府の直接雇用に限っている。間接雇用はそもそも軍属とせず、地位協定上の特権も認めていない。米国が14年にアフガニスタンと結んだ地位協定も同様に、請負業者は軍属とは扱わない。

 米軍属女性暴行殺人事件で米政府は、被告が間接雇用であったことを理由に補償対象外として賠償責任を逃れようとした。最終的には政治的判断で見舞金の支払いが決まったものの、特権だけ得て責任を果たさないこの区別こそ見直されるべきである。

 米国からの報告では軍属の数が1年前より4809人も増えていた。外務省によると、増加したのは基地内の商業施設などで働く職員数が米側の報告から漏れていたからだという。これも問題だ。特権を与えている日本政府が、地位協定の対象である軍属を把握することは主権国家として当然の責務ではないか。

 一方で、補足協定では「日米合同委員会によって特に認められる者」に軍属の地位が与えられる場合、決定内容の情報公開を定めていない。それが公開されなければ、補足協定は恣意(しい)的に運用される可能性がある。その上、日本政府は軍属明確化による犯罪防止策を打ち出していない。無策と言われても仕方がない。

 仮に地位協定対象除外者を増やしたとしても、日本の警察の捜査権が及ばない基地内で働けば、犯人は証拠隠滅を図ることが可能だ。米兵や米軍属の犯罪防止に実効性を持たせるには、やはり犯罪者に特権を与える地位協定を抜本的に改定するしかない。