『バーニング 劇場版』 原作とは一線画した、苦い恋愛ミステリー

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 韓国の巨匠イ・チャンドンの8年ぶりとなる新作で、原作は村上春樹の初期の短編『納屋を焼く』。邦題に「劇場版」と付いているのは、昨年12月にNHKで日本語吹き替えの短縮版が放送されたから。だが、テレビ向きの内容では全くない。実際、先鋭的な作品が受賞するカンヌの国際映画批評家連盟賞をはじめ国内外で高く評価されている。

 小説家志望のジョンスは、幼なじみのヘミと偶然再会し、アフリカ旅行で留守の間の猫の世話を頼まれる。帰国した時彼女は、裕福な青年ベンを連れていた。ベンが「時々ビニールハウスを焼くんです」とジョンスに語った後、ヘミは姿を消す…とストーリーだけみれば、思いのほか原作に忠実だ。

 大きく違うのは2点。1つは、主人公の設定を年の離れた小説家からまだ何者でもない若者にしたことで、青春要素が強まっている。もう1つは、終盤の展開。原作を読み解く際に多くの人が提唱している“納屋=彼女”説をイ・チャンドンも採用したと思わせておいて、実は…。それがこの映画を原作とは一線を画する苦い恋愛ミステリーに仕立てている。代わりにイ・チャンドンは、猫、ジャズ、井戸、料理、あるいはメタファーといった村上文学におなじみのアイテムを随所に散りばめることによって、観客に原作者の存在を常に意識させるのだ。結果、世界的な2つの才能が、溶け合うというよりはむしろぶつかりあって、唯一無二の世界観が誕生した。★★★★★(外山真也)

監督:イ・チャンドン

出演:ユ・アイン、スティーブン・ユァン、チョン・ジョンソ

2月1日(金)から全国公開

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