色重ね「世界一に」 ロサンゼルスで暮らす人々-vol.770

By Yukiko Sumi

樫部 翔一郎 |Shoichiro Kashibe メイクアップアーティスト

 ハリウッド映画やテレビの撮影、ファッション、ビューティーがあふれるロサンゼルス。そんな街で暮らして6年になる樫部翔一郎さんは「きれいなものを作ることにすごく執着心がある」と話す。人の顔というキャンバスに美しい色を重ねていくメイクアップアーティストが生業と聞けば、それも納得がいく。現在、『SOLSTISE』や『XIOX』といった雑誌撮影やダイヤモンドのブランド『Rahaminov Diamonds』などの仕事を中心に活動中だ。

メイクをする際はモデルの顔や衣装を見ていると映像が頭に浮かんでくるという

 メイクの仕方は、シーズンやディレクターのイメージによって変わってくる。現場へ行ってからコンセプトを聞くこともあるが、インスピレーションに従うようにと言うカメラマンもいるという。「そういうときは、モデルの顔などを見てどういうメイクが合うかとか、何を着るかによって方向性を決めます」。モデルの顔や服を見ていると、色やどういうブレンドをしたら合うかが、映像となって頭に浮かんでくるのだという。「スッと、来ます。イメージが沸かなくて苦労したことは今のところはないです」と話す。

 幼少期から漠然と米国に住みたいというあこがれを持っていた樫部さん。中学3年のころ、ハリウッド映画『死霊のはらわた』を観て「お金を貯めてアメリカへ行って、絶対に特殊メイクの仕事をしようと思った」といい、洋楽と洋画に大きな関心があった学生時代、英語はクラスでトップになるほどだった。高校卒業後はフィリピンに半年間英語留学。翌年からLAのメイク専門学校で4カ月間勉強し、帰国後に東京へ。造形工房に就職して念願の特殊造形の仕事を始めた。しかし、自分が本当にやりたいこととは違うと徐々に感じ始め、24歳のときに再びLAへ戻ってきた。

 3年ほど前、特殊メイクからビューティーのメイクアップに路線をスイッチするきっかけとなったのが、子どものころから好きだったペイント。「特殊メイクよりも着色していくほうが自分は力を発揮できると思ったんです。自分は美的感覚が人と違う感じがあると思うので」。また、ペイントがメイクの助けになることもあるという。「二次元の世界でリアルに物を作れると、三次元の世界でも簡単に作れる。メイクに反映するというか。造形でもボディペイントでも応用が効く」と、趣味もスキルアップにつなげるポジティブさを持ち合わせる。

「きれいなものを作ることにすごく執着心がある」と話す樫部翔一郎さん。メイクアップアーティストとしてLAを拠点に活動している。Instagram @shoichiro_kashibe

 メイクアップ業界の中でも特に競争率の高いというLAで生き残っていくことは、至難の業だ。メイク専門学校の同級生でも、未だこの仕事を続けているのは樫部さんを含む数人だけ。「長男じゃないのに〝一〟をもらった」という名前には、両親の「飛翔しナンバーワンになってほしい」という願いが込められている。その期待に応えるべく「世界一のメイクアップアーティストになる」ため、これからも色を塗り重ねていく。

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