第10回【豊島区】(下)コミュニティソーシャルワーカーと防災 要配慮者に寄り添った重要な活動

2015年5月にオープンした豊島区役所新庁舎(出典:写真AC)

東京都23区内の災害対策は多様です。それは、地形や過去の経験が様々だから。お住まいの地域の防災対策が「その区ならでは」のものになっていることをご存知ですか?まずは、住んでいるまちのことを知り、そのまちで安心して暮らすための対策を知る。その行動次第であなたの大切な人の命が救われるとしたら…?23区の「その区ならでは」をここで一挙にお伝えします!今回は、豊島区です。

住民と行政のつなぎ役

みなさんは「コミュニティソーシャルワーカー」という言葉を聞いたことがありますか。コミュニティに根差したソーシャルワーカー(病気やけが、あるいは高齢や障害などを抱える人やその家族に対し、日常生活を送るうえでのさまざまな困りごとに対する支援を行う人)のことで、10年ほど前から全国各地に配置されるようになってきました。

NHKドラマでも深田恭子さんが演じて注目されたのですが(「サイレント・プア」)皆さんは観られたこと、また聞いたことはありますでしょうか。

今回は、豊島区のコミュニティソーシャルワーカーの田中慎吾さんに、コミュニティソーシャルワーカーのお仕事、そして防災とのつながりについてお話をうかがいました。

コミュニティソーシャルワーカー…。
どんなことに取り組んでいる方々なのでしょうか。

「まちの中で企画を実行してみたいけど、誰に言えばいいの。地域の中で困りごとがあるけど、誰に頼ればいいのか、何から始めたらいいのかわからない…。そんな悩みを教えてもらい、住民の方が『やりたい!』と思っていることを実行に移せるように行政やその他の機関などとをつなぐような存在です」と話すのは、社会福祉法人豊島区民社会福祉協議会 地域相談支援課 コミュニティソーシャルワーク担当チーフ 田中慎吾さん。

役割を丁寧に説明してくださいました

社会福祉協議会は、それぞれの都道府県、市区町村で、地域の人びとが住み慣れたまちで安心して生活することのできる「福祉のまちづくり」の実現をめざして活動を行っている組織。

その組織の中で活躍されているのが「コミュニティソーシャルワーカー(以後、CSW)」。

「豊島区では、区内を8つのエリアに分けて、エリア内の区民ひろばに2〜3名のコミュニティソーシャルワーカーが配置されています。ご高齢者だけでなく、全世代を対象に地域住民の暮らしの相談を受けています」(田中さん)。

「たとえば、『あした食べる物がない』『いつ死んでもいいんだ』というように生きることに後ろ向きな方もいました。また、余命いくばくもない兄弟がいて、亡くなってしまってからうつ病になってしまう人も。でもそのような方々のお話を聞いて、関わっているうちに、その方が笑顔になったり、地域の方と関わっていく様子を見るとすごく嬉しい気持ちになります。また、これまで同じ地域に住んでいても顔見知りではなかった人同士が、講座やサロンなどで知り合いになることがあります。定期的に顔を合わせることで、その場限りのつながりだけでなく、普段からのご近所づきあいが始まったり、飲み会などを開催されていることも。その方々が出逢えるきっかけづくりができていると思うと、やりがいを感じます」。

しかし、なかなかふだん生活をしていて、まちに関わる機会が少ない人にとっては、CSWとはお会いする機会がないのではないか…。

「10年活動を続けてきて、やっと住民の方との距離が近づいてきたと思っています。住民の想いを出してもらい、地域内での連携により実践につなげる『区民ミーティング』という場を設けています。また、大学との連携で、学生が自分たちで企画したことを地域内で実行しています」。

たとえば、区民の方が集まって地域の課題などを話し合う「区民ミーティング」に東京福祉大学の学生が参加しています。

そこで、防災をテーマに話し合い、学生からこんな意見が。

「昼間、学校で災害があったときに、自分たちができることは何なのか?自分たちがしないといけないことは何なのか?学校でしないといけないことは何なのか?ということを考えてみたい」。

学生の意見を受けて、学園祭の時に1時間くらいで講習をしようということで、豊島区総務部防災危機管理課の方に地域の防災についてお話してもらい、学生さんが帰れない時にどのようにしてほしいかということを伝えてもらうという機会を設けたそうです。

また、都内の大学の異文化コミュニケーション学部の方々と協力して、外国人留学生と地域住民とのおしゃべりの場を設けています。町会の方から外国の方々とうまくやれないという声が挙がってきた時、コミュニケーションが足りていないだけではないかと思い、学生と協働して交流企画を進めました。

企画の段階から大学生はもちろん、留学生の専門学校生も加わり、計画を推進。

2回目は下記の通り予定しています。

■第2回外国人との交流会
2月4日(月)14:00~16:00
西池袋第二区民集会室

この機会の実現にも学生と区民を繋げているCSWの力が加わっています。学生も関わって活動を広げているとは、多世代との交流に広がっていますね。地域の中でやってみたいこと、疑問に感じていることなどはありませんか。CSWの方々に聞いてもらうと何か今の生活が少し変わるかもしれません。

お住まいの地域でも区民ミーティングのような場が開催されているけど、知らないだけかもしれないですね。お住まいの区の広報媒体などを注意して見てみると新しい発見があるかも。

直近では、2月16日(土)の13:30~15:30に中央地区第4回区民ミーティングを区民ひろば豊成で予定しています。地域の方ならどなたでも参加できるとのことです。

CSWの皆さんは、住民の方の顔が見え、地域のために何をすべきか常に模索している

みんな一緒に被災する

「災害の時は、みんな一緒に被災します」(田中さん)。
どんな立場の人でも、どんな悩みを抱えている人も同時に被害を受けるのが災害。地域をよりよくするには、一緒の状況になるという意識が大事かもしれません。

「まちで起きていることがなかなか『じぶんごと』にならないと思います。でも自分も同時に被災するんだと想像ができると地域に目を向けるきっかけになるかもしれません。区内129町会の町会長にまちの課題などを聞くと、必ず『防災』の話が出てきます」(田中さん)。

何かあったときにどう対処すればいいのか、より多くの住民の方々と一緒に考える場が必要なのではないでしょうか。

「CSWは、豊島区外から通って通勤している人もいます。災害発生時には駆けつけることが難しい場合もあります。私たちCSWに何ができるのか改めて役割を考える必要があります。『日頃からのつながりづくり』これに尽きるのかな…と」(田中さん)。

普段から地域を周り、住民の声を聞いているCSWだからこそふだんから住民が会す場を創り、話し合いの習慣をつけることが役割なのかもしれません。

障害を持つ娘と過ごす母の気持ち

「助けてほしいと訴えても皆さんもどうしたらいいのか…わからないと思うんです。ヘルプカードやコミュニケーション用のバンダナは見たことがありますか」とお話してくださったのは、障害者の地域活動支援センターIII型 「麦の家」理事長・礒崎(崎の右上は立)たか子さん。

 CSWとは、日頃からコミュニケーションを取り、相談しながら、障害のある子どもの親として地域社会に働きかけを続けておられます。

「障害と一言で言っても様々な症状があります。また見た目ではわからないこともあります。私の娘は、急に発作が起きるので普通に過ごしていてバタンと倒れる時があるのです。どうやって対応したらいいかわからなくなりますよね」と礒崎さん。

災害時に同じ避難所で過ごしているときに共生するには、お互いに「知る」そして「助け合う」環境づくりが必要ですね。

「見た目でわからない障害も含め、自分は助けてほしいんだということを示す『ヘルプカード』。障害の症状や緊急連絡先が書けるようになっています」(礒崎さん)。

 

「『耳が聞こえない』ことを示すバンダナ。被害状況が放送などで流れていても聞こえない方が隣にいるという気づきになります」(礒崎さん)。

 

礒崎さんは、区内で行われている帰宅困難者対応の会議にも出席されています。そこまで熱心に動かれるのは、ご自身の体験が大きかったようです。

昭和50年(1975)、礒崎さんの次女は2歳半で化膿性髄膜炎の後遺症を負い、言葉を失い、半身マヒが残りました。娘が幼稚園選びの時期になり、足が止まりました。

「行く場所がなかった」(礒崎さん)。

でも自分で探すしかないと思い、動き回られました。小学部へ行く時も同じ。礒崎さんは「知的と身体両方の障害があるとどこの学校に行けばいいのか全然わからなかった」と振り返ります。学校が見つかったとしても、スクールバスが家の近くまでお迎えに来てもらえない状況。ここでも礒崎さんは動き、家の近くまでバスが送迎に来てくださることに。

今までの人生、自分自身で動き、状況を変えてきた礒崎さん。動かなければ何も変わらないという経験があるからこそ、今も地域の会議に参加し、ただ求めるだけではなく、地域住民それぞれが暮らしやすいように声を挙げておられます。

「頼るだけではなくて、自分たちではどこまでできるかを伝え、これ以上は難しいので助けがほしいと伝えるようにしている」と礒崎さん。

「受け身で助けてほしいと思っていてもだめで、助け合うには発信することが必要だと思っているんです。会議に出席して、配慮してほしいことがあれば、伝える。伝えないと皆さんもわからないですから」と、自ら行動して、対策案を考えようと意欲的に行動されています。

写真を拡大 「ここにも参加します」と礒崎さんが渡してくれたチラシ。自ら動くことで変わる

してもらうではなく、自ら動く

自分の子どもも配慮が必要だけど、周囲にうまく切り出せずにいる。防災のことは地域の誰かまたは、行政が対策をしているはず。何かをした方がいいと思うけど…何から始めたらいいのかわからない。行動したい気持ちはあるけど、なかなかできていないという気持ちを抱えておられるかもしれません。日々の生活で忙しくなかなか防災について考える時間は取りづらいですよね。

今日、家を出て道を歩く時、すれ違う方と挨拶を交わしてみる、また、歩いている人の様子をちょっと見てみるというところから一緒に始めてみませんか。手助けが必要なのかもしれないという気持ち、頼りたいな…と思える気持ちが少しずつ芽生える一歩に繋がるかもしれません。

助けられる場合も助ける場合も日頃のコミュニケーションがなければ始まらない。地域をつなげようとしてくれているCSWの方や地域の団体の方々と協働しながら、少しずつ備える体制を築くことができればいいなと感じます。

そのためにも、今後、防災対策においてもCSWの存在がとっても重要になるのではないか…と実感しました。

今日、家を出て、周りを見渡し、気になる方がいたら、一人でお声がけするのも勇気がいることですね。そんなときは、田中さんを始めCSWの方に相談してみませんか。一緒に考えてくれるかもしれません。

その小さく見えて、大きなあなたの一歩が繋がり、少しずつ災害に強い地域ができていくのかなと思っています。

(了)

 

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