「日本人お断り」の観光列車

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大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

共同通信社編集局経済部次長

大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

共同通信社編集局経済部次長

1973年東京都生まれ。97年に入社し、松山支局、本社経済部、ニューヨーク支局などを経て2016年10月から現職。運輸と旅行、国際経済の分野を長く取材し、日本一の鉄道旅行を毎年選ぶ賞「鉄旅オブザイヤー」の審査委員を務めている。

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JR北海道の車両「クリスタルエクスプレス」(上)と、道中で見えたキタキツネ=2018年1月28日、北海道弟子屈町

 「日本人お断り」の観光列車が1月31日、北の大地を駆けた。使用が予定された車両は、バブル期にスキーリゾートを訪れる旅行者を運ぶために製造されたJR北海道の4両編成のディーゼル車両「クリスタルエクスプレス トマム&サホロ」キハ183系だ。

 クリスタルエクスプレスの先頭部は運転席を2階に設けて客室に大きな窓を備え、2階建ての中間車両を連結している。まるでJR九州の観光列車「あそぼーい!」の先頭車両と、近畿日本鉄道の「しまかぜ」の中間車両の“いいところ取り”をしたような豪華な仕様だが、経営不振に陥ったJR北海道が合理化へまい進する中で力走する姿を眺められる機会はまれだ。

 “乗車拒否”に遭った形の日本人の鉄道愛好家からは不満の声が渦巻きそうだが、そこには「大人の事情」がある。

 JR北海道が単独では維持困難としている10路線13区間に含まれた釧網線〈釧路(釧路市)―網走(網走市)〉について、北海道は釧路湿原や阿寒湖、摩周湖、知床半島などを訪れる観光客の利用を促して存続させる道を探っている。そこで助成金を出し、拡大する外国人旅行者の潜在需要を探るために、クリスタルエクスプレスで釧網線を網走から釧路へ南下させることを計画したのだ。1人当たりの参加料金は、ホテルの1室2人利用で2食付き3千円と激安だ。

 実は予定が変更になって当日は同じキハ183系の団体用車両「ノースレインボーエクスプレス」で運用されたのだが、私はクリスタルエクスプレスが走った場合の光景を鮮明に思い浮かべることができる。実は1年前の昨年1月に同じ釧網線の網走から釧路までをクリスタルエクスプレスで移動するツアーがあり、その際は日本人にも門戸が開放されていたため参加したのだ。そこでクリスタルエクスプレスに乗ったことがない方に、乗車体験をお伝えしたい。

 私の座席は2階建て中間車両の2階で、2席同士が向き合ったボックス席だ。木製のテーブルを配置し、大きな窓からの景色を楽しみながら飲食ができる。網走を出発して約30分後、風雪に耐えてきた木造駅舎が残る北浜(網走市)に滑り込んだ。

 この日は残念ながら流氷が漂着していなかったが、その代わりとばかりに走りだした列車内の“漂流者”となって探索した。車両の1階部分に足を運ぶと、廊下に沿って4人用の個室が三つ並んでいる。登場当時は、「OK!バブリー!!」と踊るお笑い芸人の平野ノラさんのように浮かれた会話で盛り上がっていたのだろうか?

 続いてもう1両の中間車両に入ると、側面の窓の上部に左右1列ずつ連なった窓から太陽光が降り注いでいた。座席は、通常の特急用車両のように背もたれが倒れるリクライニングシートだった。

 いよいよ先頭車両にたどり着き、リクライニングシートの間を抜けて大眺望が待ち受けているはずの最前部へ向かった。ところが、想定外の光景が待ち受けていた。「あそぼーい!」ならば子供らがかぶりつく展望席の部分は何もない“空白地帯”となっており、「関係者以外立入禁止」と表示した手前の仕切り扉が遮断していた。

 登場時は前面展望を楽しめる座席が並んでいたが、運転席を高い位置に置いた別の車両で2010年に起きた踏切事故の発生後に、「再発防止策」という名のもとに先頭部の座席が撤去され、立ち入り禁止になったという。だが、これでは宝の持ち腐れだ。

晴れ渡って一望できた北海道弟子屈町の摩周湖(上)と、仕切り扉に「関係者立入禁止」と記されたクリスタルエクスプレス車内の先頭部分=2018年1月28日

 クリスタルエクスプレスが走った釧網線を観光路線として存続させる方向性に対し、沿線自治体からは「沿線には良い観光資源が多いので、何とか釧網線を残したい。欧米系を含めた外国人旅行者が結構乗っており、(路線バスなどの)二次交通を整備すればもっと乗ってもらえる」(弟子屈町の徳永哲雄町長)、「乗るだけではなく、乗って楽しい鉄路を目指すことが訪日客の拡大につながる」(網走市の水谷洋一市長)と期待感が広がっている。

 確かに沿線は素晴らしい観光スポットの宝庫だ。途中の一部行程で利用した貸し切りバスの道中ではキタキツネの姿を見られ、晴れ渡った空の下で摩周湖を一望できて「こんな晴れた日は珍しく、お客さんたちはラッキーです!」とバスガイドさんが声を弾ませた。

 クリスタルエクスプレスで釧路湿原にある茅沼(標茶町)に停車した際は、タンチョウの姿も見られた。非日常的な観光列車の空間を味わい、素晴らしい自然美が目の保養となり、釧路までの鉄道旅を満喫した。

 しかし、1階の先頭部分という“特等席”をデッドスペースにし、「関係者以外立入禁止」と乗客をあしらっているクリスタルエクスプレスの現状は画竜点睛を欠く。目にした摩周湖の絶景とは対照的に、歌手布施明さんの曲「霧の摩周湖」の歌詞のように旅情は霧で覆われたままだった…。

 ☆大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)共同通信社福岡支社編集部次長。「九州に異動したのに北海道の話題なの!?」と首をかしげられそうですが、九州のテーマは「到着までしばらくお待ちください」!