70年目のルーキー(4)大貫晋一 最年長、覚悟の夢舞台

 2017年6月5日。都市対抗野球の出場を懸けた北関東地区予選で、新日鉄住金鹿島の当時2年目だった大貫晋一(24)は先発マウンドを託された。

 「このチャンスをつかまないと普通の選手で終わってしまう。絶対に負けられない」。大一番で潜在能力が目覚めた。独特の軌道を描くツーシームを駆使して日立製作所打線を4安打6奪三振で完封。本大会出場を手繰り寄せた右腕にとっては、プロへの視界が開けた瞬間でもあった。

 横浜市青葉区出身。小さい頃からベイスターズのユニホームを着て横浜スタジアムに通った。「見ていてすごく頼もしかった」。印象に残っているのは勝ち星に恵まれないものの、マウンドで孤軍奮闘する「ハマの番長」三浦大輔氏(現・投手コーチ)の熱投だった。

 静岡の高校を経て、地元に戻ってきた日体大ではけがに苦しんだ。2年春に首都リーグでベストナインに選出されたものの、右肘内側側副靭帯(じんたい)を断裂しトミー・ジョン手術に踏み切った。1年以上のリハビリを経て大学ラストイヤーに間に合ったが、当時1年の松本航(西武ドラフト1位)がエースに成長していた。

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 大貫が大きく飛躍したのは社会人に進んでからだ。「決め球がないとスカウトの目には留まらない」。チームメートで元ベイスターズの伊藤拓郎のアドバイスに耳を傾けて、いまや代名詞となったスプリットを習得。課題だった体の細さを克服しようと、ウエートトレーニングも取り入れた。社会人3年目の昨春、侍ジャパン社会人代表選考合宿に参加するなど注目を集める存在になった。

 プロでは、社会人チームの先輩で昨季引退した加賀繁さんの背番号を継承した。「1年目が大事だよ。チームの雰囲気はいいから頑張ってね」。昨年秋の日本選手権後、直接優しく声を掛けてもらった。「恥ずかしいことはできない。加賀さんを超える活躍をしたい」

 憧れのユニホームに袖を通した最年長ルーキーは、入団会見で色紙に「覚悟」としたためた。新人合同自主トレーニングでもドラフト1位の上茶谷に負けじと猛アピールし、先発ローテーション入りを狙う。

 「今年で25歳とギリギリの年齢。早く投げて結果を出さないといけない」。子どもの頃に見たあのマウンドで、全力投球する日を心待ちにしている。

 ◆おおぬき・しんいち 投手。横浜市出身。静岡・桐陽高-日体大-新日鉄住金鹿島。高校時代は3年夏に主戦として県8強。大学で右肘を手術し、社会人2年目から頭角を現した。都市対抗大会、日本選手権で通算5試合に先発し3試合で完投勝利。181センチ、75キロ。右投げ右打ち。背番号16。24歳。

即戦力右腕として1年目から期待がかかる大貫=横須賀市長浦町のベイスターズ総合グラウンド

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