【長谷川滋利の目】「アメリカなら告訴」― 球数制限は子供たちが犠牲にならない野球界へ

オリックス、マリナーズ、エンゼルスで活躍した長谷川滋利氏【写真:本人提供】

日米通算102勝の右腕が持論展開「将来的には甲子園から連戦、連投はなくなっていく」

 プロ野球は2月1日からキャンプがスタートし、春を告げる選抜高校野球大会の出場校も決まった。野球シーズン到来が間近に迫る中、オリックス、マリナーズ、エンゼルスで日米通算102勝をマークした長谷川滋利氏が未来の野球界に向け持論を展開。アマチュア野球界で賛否を呼んでいる「球数制限」についてだ。

 昨年12月に新潟県高校野球連盟が、今春の県大会で1試合につき1人100球までとする「球数制限」を導入することを明らかにした。これまでも酷使される高校球児のあり方について提言してきた長谷川氏は「非常にいいアイデア」と賛同する。

「正式な形として導入されたことは素晴らしいことです。散々、今まで議論されてきた中で賛否はありましたが、これはもう高野連が決めないとどうにもならない。将来的には甲子園から連戦、連投はなくなっていくと思います。日本はリサーチして一気に決めることが多いが、試験的でも導入されたことはいいことです」

 日本と米国に拠点を置く長谷川氏は「投手の起用法」について両国の意識の違いを指摘する。米国では週に1回、多くて80球などトレーニングの上限を厳格に定めている。

「日本人選手でもメジャーに行って20、30億円を稼ぐ投手はいる。その選手を中学、高校、大学で潰してしまっていいのか? アメリカなら絶対にそのような“酷使”はさせません。仮に指導者がそれをしてしまえば、アメリカなら最悪の場合は告訴されることもあります。それぐらい肩、肘など子供たちの将来を考えています」

「3、4時間の練習でも絶対にプロのレベルには到達します」

 ようやく「球数制限」が形となったが、まだまだ日本では一人でマウンドに立ち、疲労困憊の中で投げる姿が美談として捉えられることが多い。

「少しずつ無くなってはきているが、現状はそれほど変わってない。将来有望な選手が早ければ中学生で消えることもざらにあると聞きます。アメリカであるように、一度そういった(告訴する)人が出てきてもいいかなと。必ずメディアで取り上げられますし、それぐらい注目されれば考え方も変わってくるでしょうね」

 ただ、一方では選手層の厚い強豪私学と推薦などを取らない公立校の違いもあり、「球数制限」の導入には「不公平になる」との声も挙がっている。それでも、長谷川氏は“その声”を一刀両断する。

「プロ野球を目指す選手は数%しかいない、という人もいますが、そうじゃない。将来的に野球をやらない人なら肘や肩をケガしてもいいのか、ということです。私の周りにも高校時代のケガで肘が曲がらない人もいます。肘が曲がらない、肩が上がらないことで仕事ができなくなる人もいます。手術して直した場合の費用は個人負担でしょ? 昔の話として終わらせること自体がおかしい」

 高校野球のあり方を再認識する必要もある。近年では2、3時間で効率のよい練習方法を実戦し、甲子園に出場する高校も増えてきた。一方、早朝から授業を挟み、日が落ちてもまだ練習を行う高校も存在する。

「本来、学生の本業は学業です。私の時代の強豪校は猛練習が当たり前の時代。他の人は『それがあったからプロになれたんでしょ?』と言われるかもしれないが違う。プロになるのは少し遅れたかもしれないが、3、4時間の練習でも絶対にプロのレベルには到達します。球数制限もそうだが、学生の本業を考え子供たちが犠牲にならない野球界を作っていってもらいたいですね」(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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