国会議長が暫定大統領に?ベネズエラで一体いま何が起きているのか

ベネズエラで国会議長が暫定大統領就任を宣言するなど政治的混乱が広がっています。ベネズエラで一体何が起きているのでしょうか。今回はベネズエラの混乱の背景を解説したいと思います。

チャベス大統領の政治による大統領の強権化

ベネズエラは1958年以降民主行動党とキリスト教社会党とによる二大政党制が展開されていました。しかし、この時の政治はエリート的として貧困層による不満の対象となっていました。
このような不満を背景として、元中佐のチャベス氏が1998年大統領選で勝利します。チャベス氏は「21世紀の社会主義」を標榜し、国有化した石油資源をもとに無料医療施設建設や識字教育などの貧困対策を打ち出していきます。その結果、貧困層からは根強い支持を獲得するに至りました。
一方で、チャベス氏は自身の権力基盤の拡充に努めました。1999年の国民投票では憲法改正案を承認し、二院制を一院制に変更、大統領任期を6年に延長、任期制限を緩和して2期連続を可能にしました。さらに、2009年国民投票によって任期制限そのものを撤廃しました。
貧困層からの根強い支持と国民投票による憲法改正の結果、チャベス氏は2012年に4選を果たします。しかし、2013年にチャベス氏は死去しました。

マドゥロ政治―チャベス路線の継承―

その後の選挙でチャベス路線の継承を訴えて大統領に就任したのが現在のマドゥロ大統領です。しかし、チャベス政権期と異なり、石油資源価格が低迷しインフレが悪化するなど経済状況は混乱に陥っています。また、治安も近年急速に悪化し危機的状況にあると言えるでしょう。無論、こうした混乱はチャベス政権の政策の影響とも言えます。チャベス政権が価格統制や企業の接収を推進した結果生活物資の生産が停滞し、経済規模はマドゥロ政権の5年間で半減しています。しかし、マドゥロ大統領もまた、チャベス路線を継承することを訴えて当選した手前、このような混乱への打開策を見いだせない状況です。
このような混乱は政治においても起きました。2015年には国民議会選挙が行われましたが、そこでは野党が圧勝しました。その結果、大統領対議会という構図が鮮明となりました。それに対して、マドゥロ政権はまず政権派の最高裁に議会の法案が無効であることを繰り返し認めさせていったのです。
さらにマドゥロ政権は2017年一院制の国民議会とは別に制憲議会と呼ばれるものを招集しました。制憲議会とは憲法改正を目的とした臨時の立法機関で、選挙によってえらばれた国民議会の無効化を含む強い権限を持ちます。加えて、制憲議会の選挙を取り仕切る選挙管理委員会が政権支持者によって構成されていたため、そもそも選挙は公正に行われないことが懸念され、野党はボイコットを訴えました。結局、制憲議会の議席はすべて与党統一社会党が占めています。
そして、2018年には大統領選挙が行われましたが、この選挙もまた不公正さを批判されました。有力な野党候補は投獄される中、マドゥロ大統領は「圧勝」したのです。
この選挙以降、各国の制裁が加速しました。特にアメリカは、政府や国営企業に対して資金調達を大きく制限する経済制裁を行うなどベネズエラ経済への締め付けは強まっています。

国会議長の暫定大統領就任と混乱

このように政治、経済ともに混迷する中起きたのが、グアイド国民議会議長の暫定大統領就任でした。グアイド氏は2018年大統領選挙の無効を訴え、再選挙を要求しています。そして、その間暫定大統領に就任することを訴え、国内外の支持を呼びかけました。
その結果、国外においてもマドゥロ派とグアイド派に分かれる事態となっています。アメリカはいち早くグアイド氏支持を訴え、国際舞台で各国にグアイド氏支持を求めています。一方でロシアと中国は内政干渉としてアメリカを批判しマドゥロ氏支持を訴えています。
当面の問題は、チャベス政権、マドゥロ政権が権力基盤として優遇した軍がどのように対応するかでしょう。軍がマドゥロ支持を守れば政変には結び付きにくいとされています。一方で、軍が分裂したり、軍幹部がグアイド氏支持に変わったりすれば、マドゥロ氏は権力基盤を喪失し、政変へと突き進む可能性が指摘されています。

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