冬でも履けるミシュランの夏タイヤ『クロスクライメート』をクローズドコースで試乗テスト!

ミシュラン ウェットハンドリング クロスクライメート+ VW ゴルフ1.2TSI 装着サイズ:205/55 R 15

ミシュランからこの冬を賑わす、興味深い“夏タイヤ”が発売された。

その名は「クロスクライメート」。読んで字のごとくその性格は、全天候型のプレミアムタイヤ。端的にそのキャラクターを表せば「オールシーズンタイヤ」と言うことができるのだが、昨今では2016年にグッドイヤーが、「ベクター フォーシーズンズ ハイブリッド」を日本市場に投入して俄にこの分野が注目され初めている。

そしてミシュラン自体はこのクロスクライメートを、“冬でも履ける夏タイヤ”と表現しているのだ。

そもそもなぜこうしたオールシーズンタイヤが、日本に導入され始めたのか?

それは非降雪地域ユーザーの“冬支度”に対する負担の声が、大きくなってきたからだろう。

雪が降るのは年に一度か二度。ウインタースポーツを楽しむために雪山へ行くわけでもなく、日常のアシとして使われるクルマに、スタッドレスタイヤを用意するのはコストもかかる。タイヤサイズの大きなSUVやプレミアムセダンであればこれはなおさらだし、マンション住まいの場合などは、保管場所の確保や運搬にも頭が痛い……。

これってどうにかならないものか?

こうした歯がゆさを、解決しようじゃないか! というわけである。

濡れた路面でのブレーキング性能をチェック!

今回は、このクロスクライメートにおける“非降雪時の性能”をテストコース(栃木県 GKN ドライブライン プルービンググラウンド)で試すことができた。

えっ、雪上性能じゃないの!? というなかれ。なぜなら我々が慣れ親しんだ冬タイヤ、つまりスタッドレスタイヤの弱点を、このタイヤは大きくカバーしているからだ。

具体的にいうとそれは、ドライグリップ性能とウェット性能である。

さらに今回ミシュランタイヤはこのテストで、大胆にも自社のベーシックタイヤである「エナジーセイバー+(プラス)」や、プレミアムコンフォートタイヤである「プライマシー3」と比較させてくれたのである。

まずはウェット路面での直線制動だ。車輌は日産 セレナで、タイヤサイズは195/65R15である。

ミシュラン クロスクライメート+ ウェットブレーキテスト 日産 セレナ 装着サイズ:195/65 R 15

驚いたのはここで、いきなりクロスクライメートがエナジーセイバー+よりも半車身近く短い距離で完全停止したことである。その数値は今回のテストが一定条件を用意して計測されたものであるために、汎用性がないためお伝えできないが、全部で3回計測したうち2回が、まったく同じ結果となった。

ちなみにエナジーセイバー+はベーシックタイヤだが、その価値感は多くのメーカーとは少し違う。このタイヤはまさにミシュランタイヤの根幹であり、これをベースにしてスポーツ性を高めると「パイロットスポーツ」に、コンフォート性能を高めれば「プライマシー」になる、まさにベースタイヤなのだ。筆者も丸々4年、6万km近い距離をこのタイヤと過ごした経験があるのだが、非常に素直で頼もしい存在だった。

そのエナジーセイバー+を、ウェット制動で軽く上回るなんて。ミシュラン最新のオールシーズンタイヤって、こんなにスゴイのか?

そしてこのときはじめて筆者は、ミシュランの真意をくみ取った。これは本当に、「夏タイヤ」だったのだ。

高速性能とウェットハンドリングも秀逸

その後は高速周回路とウェットハンドリング路で、トヨタC-HRとフォルクスワーゲンゴルフ1.2TSIを走らせた。前者は純正装着タイヤとして「プライマシー3」を掃いており、後者は引き続きエナジーセイバー+との比較だ。

ここでもクロスクライメートは、非凡な性能を示した。

ミシュラン クロスクライメート+ ウェットハンドリング トヨタ C-HR 装着サイズ:215/60 R 17
ミシュラン ウェットハンドリング C-HR比較車両:ミシュラン プライマシー3装着車

C-HRとプライマシー3の組み合わせは、さすが標準装着といえるバランスの良さが特徴だ。ステアリングの切り始めから自然なロール感でハイブリッドモデルの鼻先をターンさせ、しなやかに車重を受け止めてバンク路面にタイヤを追従させる。そして直線加速からの高速レーンチェンジでもふらつき感や揺り返しを出すことなくパイロンをクリアし、スマートに車体を安定させた。

対してC-HRにクロスクライメートを履かせると、プライマシー3のすっきり感に対してシッカリ感が際だった。テストコースの路面がかなり良好だから過大な評価は避けたいところだが、ゴツくて深溝のV字シェイプトレッドがウソのようにロードノイズが静かで、かつ乗り心地もいい。そしてバンクやレーンチェンジは、ダンパー減衰力が一段高められたかのような安心感をもってこれをクリアできた。技術的な面でいうとトレッドブロックの角を面取りした効果が高いようで、トレッド面の突っ張り感やその後の倒れ込み感が感じられない。スタッドレスタイヤやオールシーズンタイヤに見られるドライ路面でのグニャグニャ感はまったく意識されず、むしろその頼もしさから操作の先読みが可能となり、走りにも余裕が生まれた。

驚いたのはウェット路面でのコーナリングだ。バンク角が付かず、かなり回り込んだ平坦で濡れた路面でクロスクライメートは、プライマシー3の一歩上を行くグリップ感を発揮したのだ。ステアリングを切り込み続けてもフロントタイヤのグリップ抜けが起こらず、ジワジワとアンダーステアの発生が近いことを教えてくれる。またここでアクセルを抜きフロントグリップを回復させても、リアタイヤが慣性を抑えてくれて唐突に巻き込むような動きが起こらない。ここには冬期までカバーするコンパウンドの柔らかさが効いているのだろう。分厚さを持ちながらも穏やかなグリップ感がそれをイメージさせる。しかしそのライフ性能は、エナジーセイバー+より高いというのだからいやになる。

ミシュラン ハンドリング クロスクライメート+ VW ゴルフ1.2TSI 装着サイズ:205/55 R 15

そしてゴルフとクロスクライメートの組み合わせは、さらに相性が良かった。

ゴルフ1.2TSIとエナジーセイバー+はこれぞ“ザ・ベーシック”と膝を打ちたくなるムダの無さで、路面からの入力やグリップ限界をわかりやすく乗り手に伝えてくれる。その運転しやすさには着慣れたシャツのように気持ち良いのだが、クロスクライメートはその着心地ならぬ乗り心地に、違和感なくそのまま厚みを加えてくれる。ゴルフ本来の特徴である車体剛性感を底上げしてくれるのだ。

冬用タイヤの弱点を克服したクロスクライメート

スタッドレスタイヤやオールシーズンタイヤを非雪上路面で使うときに一番問題となるのが、こうしたドライ路面での安定感と、ウェット路面での排水性。その二点に置いてクロスクライメートは合格点! まさに夏タイヤと呼べる走りを披露した。いや、既存の夏タイヤと比べても、優れた性能を発揮したと思う。

本当にこれで、雪上も走れてしまうのだろうか? そんな都合がよいことってあるの? これがクロスクライメートに持った第一印象だ。

そして注目の雪上性能は、北海道の地でテストができることになっている。

「雪も走れる夏タイヤ」、その正体をお伝えするのはもうすぐ。ちょっと面白くなってきたゾ

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