ニューヨークの飲食業事情 ニューヨークで人気のラーメン店と焼き肉店それぞれの責任者、宮下さんと酒井さんが「ニューヨークの飲食業事情」をテーマに語り合った。

ニューヨークの業界事情を教えてください。

宮下 ラーメンは、先に進出した先輩方がだいぶ盛り上げてくれたおかげで、すっかり知られています。私たちはどちらかというと後発組です。今までは日本のラーメンが出店すればある程度売れる風潮があったけど、これからは淘汰(とうた)の時代。価格帯、コストパフォーマンスをより精査していかないといけない時期に入っていきますね。

酒井 その点、焼き肉はラーメンやすしに比べ、まだ認知度が低いですね。ただ、私たちが最初に来た頃よりは知られ、カルビや和牛といった言葉も浸透しつつあると感じています。

宮下 環境が違いますね。ラーメン店を出す余地は少なく、いかに生き残っていくかが課題です。

酒井 日本から進出している焼き肉店は数えるほどで、それぞれ価格帯やコンセプトも違う。だから競合している認識はあまりないですね。今年は日本から有名店も進出すると聞いていますし、まだまだ出店のポテンシャルは大きい。

従業員とのやり取りは?

宮下 周りからは「外国人だからコミュニケーションが大変でしょう?」と聞かれもしますが、同じ人間なので、意思疎通での苦労はあまりないですね。きちんと接して話を聞くということ。日本も外国もそこは一緒。むしろ外国の人は日本人よりストレートに言いたいことを言ってくる。その点、気は楽ですね。

酒井 激しく同意です。同じ人なので。日本人同士だって従業員とのコミュニケーションは難しいですからね(笑)。

心掛けていることはありますか?

宮下 感謝の気持ちをしっかり伝えることですね。どこの国の人も褒められるとうれしいでしょうから。日本人には照れ臭くて気持ちを伝えづらいけど、外国人だと英語で「サンキュー」、「ソーリー」って気軽に言える面もあると思います。

酒井 そこも宮下さんと一緒で感謝ですね。それと従業員にはプロッフェショナリズムを持ってもらうようにしています。

プロフェッショナリズム?

酒井 要は「何屋なの」ってことですね。コンセプトをしっかり持ってぶれないこと。飲食業界は「開業して5年以内に9割が廃業する」と言われる中、どうやって差別化するか。

うちなら、特に接客に力を入れ、従業員へもそこは入念に教育しています。私たちは何千、何万枚とカルビを扱いますが、お客さまには貴重な1枚。そのカルビ次第でお店の印象が決まってしまうという覚悟で、最上の商品、接客サービスを提供しようと日々努めています。

また、和牛専門の肉の割烹(かっぽう)も近くオープンする予定で、より違った展開を打ち出せると思います。

宮下 うちも差別化は強く意識しています。今ラーメンの世界的な潮流はとんこつ。僕らはしょうゆのベースが強めの豚骨しょうゆで太麺。日本人も外国人も食べておいしいと思ってもらえる味を追究しています。

ラーメンの業界はますます厳しい競争になる。日本風の低価格競争も始まると思うし、出店する立地も難しくなる。いかに生き残っていくかですよ。

酒井 うん。生き残りですね。

宮下 うまい、まずいだけじゃない。売れている店が正解なんですよ。

酒井 そうそう。自分たちがおいしいと思っているからって、お客さんがついて来てくれるとは限らない。

宮下 売れたら成功事例になる。だから、他業態でもいろいろな人の話を聴くようにしています。

酒井 私も。宮下さん、ギフトさんとはパッションとか理念とか、共通している部分が多くあるなあって今改めて思いました。

酒井純平

東京都出身。大学卒業後に商社入社、2014年FTG Companyに転職。15年「焼肉ふたご ニューヨーク店」出店に伴い赴任。FTG Company USAゼネラルマネジャーとして、従業員の採用・教育も担当。www.futago25usa.com

宮下清幸

石川県出身。2008年、ラーメン店チェーン「ギフト」の創業に携わり、「横浜家系ラーメン」のシンガポール店立ち上げなど海外展開に尽力、17年から「E.A.K.RAMEN」GIFT NEW YORK LLCマネジャー。www.eakramen.com

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