Discharming man × bed【完全版】- 憧れから共鳴へ。心に染み入る珠玉のスプリット誕生

Split 7inch 『mother』

──昨年の11月にSplit 7inch『mother』が発売となりました。それぞれどのようなテーマ、楽曲となっていますか?

蛯名(Discharming man):「hole & hole」はキウイ(ロール)時代からこの80'sライクなビートをやりたくてもなかなかやりきれなかったんすよ。それこそThis charming manとか。でもやってくうちにテンポが速くなったり激しくなっちゃったりして。それを初めて納得できる形に出来て良かったです。ただレコーディングからアレンジがどんどん変わってるからライヴで少し戸惑う人もいるかも。タイトルはHall & Oatesをもじりました。

山口(bed):「僕にはわからない」は蛯名さんからスプリットの話を持ちかけてもらった時にすでにあって、ライブでも数回演奏していた曲です。今のbedらしさが込められた曲であり、作っていく過程も、ベースの村山がイントロのベースフレーズを持ってきて、そこから全員でスタジオセッションを重ねながら完成させる、という形で、4人それぞれの色がしっかり反映されている曲です。Discharming manという自分たちにとってとても大きく、 深くリスペクトするバンドとのガチンコ1曲ずつ、というスプリットに一番相応しいと思い、チョイスしました。同時期に単独EP『right place』も録音していたのですが、この曲はスプリットに入れる、と最初から決めていました。

──スプリット誕生までの経緯をお教えください。また、お互いに地方で活動中のバンドということで、距離があるなかの制作において大変な部分もあったかと思いますが、いかがでしょうか。

蛯名これはオレが先輩風を吹かせていっしょにやってほしいバンドを勝手に選んで勝手に新川くん(stiffslack)にお願いした。

山口蛯名さんからは、Climb The Mindとのスプリットとこのスプリットを連続リリースしたいと聞かされて、めちゃくちゃ上がりました。制作も、今はLINEやらdropboxやらがあるので過程も見ながら取り組めて、スムーズでした。とはいえアナログで海外プレスなのでリリースまでのリードタイムを長めに考えなければならず、締め切りなどの点は苦労したかもしれません。

蛯名レコ発(2018/11/3 @札幌サウンドクルー)がね...結構、ギリギリ間に合って良かった。間に合わないレコ発は『YOUTH ENRAGE』以来になるかなと高を括ってたんだけどね。

山口僕らの手元には札幌に発つ日の朝に届くことになっていて、飛行機の時間とにらめっこしながら配送業者さんに電話しまくりました(笑)。

前進し続けている姿

──スプリットは互いに愛と尊敬があるからこそだと思います。それぞれ互いのバンドへの印象、お好きな点、思い出などあれば教えてください。

蛯名スプリットに入るバンドを褒め合うとかホント気持ち悪いんだけど、bedはね…もう国宝級なんですよ。しっかりと歌を残せるバンドってclimbもそうだけどだんだんやるのが難しくなってきてる。アングラレベルでそれをやると浮いちゃったりするのもあるし。でも相当な説得力でやってるから、もういつも口開けて見てます。

山口Discharming manはそれこそ最初、蛯名さんと小野寺さんがデュオ形態でやっていた頃から、音源・ライブをチェックし続けている、言わば憧れの存在です。いつから仲良くなったのかもう思い出せないんですが、多分幼馴染のバンド、dOPPOが5Bからリリースしてからだと思います。いろいろな場所で、形態で、ライブを観てきました。今は「憧れ」というよりもう少し近い場所で共にものが見られる存在になれたかな、とは思いますが、いつの時代も蛯名さんの歌は自分に突き刺さります。メンバーや、周りにいる札幌の面々の雰囲気も本当に大好きで、会う度に勇気をもらえるとても大切なバンドです。歴代のギタリストも全員好きです。

蛯名オレも歴代のメンバーみんなリスペクトしてる。ただ今の4人が究極だと思ってて。ここが崩れたらディスチャやめようとも思ってる。こないだくしこ(Ba)にそれはダメって止められたけど、それぐらい腹括って今はやってる。

山口常に新しい形をベストに持っていこうとしているところが、本当に凄いです。僕らもメンバーチェンジを経験しましたが、それでも続けていこうと思えたのはDischarming manが前進し続けている姿に影響されたのも大きいです。歴代のメンバーが今のDischarming manのライブを観に来て、みんなフロアでシンガロングしてるのとか、ほんと素敵だなと思います!

蛯名辰ちゃん(bed Dr)いいよね! はるちゃん孤高だったからどうなるかと思ったけど、また別のカラーというか献身的なドラムがbedにフィットしてて、こないだのレコ発は泣けた。

──皆さんそれぞれが思う、今回のスプリットの聴き所をできるだけ具体的にお願いします。

蛯名今回もシングルからの流れで憲ちゃん(中尾憲太郎 Crypt City)にプロデュースしてもらって、良い意味でショボい感じにしたかったから一緒に意識してできたかな。テンポとか展開も聴き手をモヤモヤさせるというか(笑)。やったことないリズムだったからみんなで試行錯誤しました。ちなみに憲ちゃんのタンバリンも収録されてます。

山口自分たちの曲の聴き所は、やはり頭から全編を引っ張るベースラインでしょうか。村山の得意とする和音系フレーズですが、持ち味がガッツリ出てると思います。ギターは残響が気持ちよくなるように音作りをして、ジューシーのストレートな歌メロが生きるようなアレンジを心がけました。

蛯名dOPPOでもそうだったけど村山くんのベースって絶妙なんだよね。欧米の所謂EMOの感触と、ブッチャーズの射守矢さんみたいな粘りみたいなのが良いバランスで融合してる。まあ歌が素晴らしいっていうのが前提の話しだけど。

山口この曲を作り始める少し前に、射守矢雄と平松学のライブを観ているので、あらためて自分のルーツに立ち返ったのかもしれません。そのようなことを言ってました。

新しい何かを求めて活動する

── 今回のスプリットのタイトル『mother』、直訳すると「母親」となりますがどういった理由でこのタイトルにされたのでしょうか。

蛯名これは単に山口くんがお母さんみたいな雰囲気だったんで、そのまま響きも良いんでつけました(笑)。あまり意味はありません。

山口札幌の人たちから僕が「お母さん」と呼ばれているから、ということで蛯名さんが提案してくれました。そう思われているのが結構嬉しいので笑、即決でした。気に入っています。

──Discharming manは今回のbedとのスプリットとほぼ同タイミングでClimb The Mindとのスプリットもリリースしていますが、他バンドとスプリットという形でのリリースにどのような意義を感じていますか。また両作品のコンセプトの違い、制作過程など、比較しながら内容を教えていただけないでしょうか。

蛯名実はもう1バンド予定してるんすけどそれは置いといて…まあ以前にもdOPPOとスプリットCD出したり、キウイん時もechoとやったり。単純にスプリットが好きなのかもしれないっすね。V.Aとか。思えばその昔、HG.FACTとかZKなんかがこの手のリリースをすごくしててその影響あるかも。でも実際に7"epでスプリットを出せたの初なんで、地味に感動してます。両作品のコンセプトは無いです。climbのほうは山内くんからリクエストあったかな。作品に振り幅があるのはオレらがたまたまそういうバンドってだけですかね。

──bedの皆様は昨年から自主レーベル「No False Records」を立ち上げるなど大きな一年になったかと思います。バンド内で心境の変化や活動のスタンスなど変わった点はありますか?

山口自主での活動を始めたのは、メンバーが変わったことが1つと、ずっとお世話になっていたレーベル(3P3B)が、世代問わず新しいバンドのリリースを積極的にやり始めたことも大きな理由です。bedの活動も15年近くになり、このままなんとなく中堅的な活動をしていくのではなく、もう少し自分たちのやることに自覚的になろうと思い始めました。家庭を持ったり、大切な仕事があったりという中で、バンドに割ける物理的な時間は今後増えることはないかもしれない。ではその密度を上げたいと。これまでも自主企画はやってきましたが、より自分たちに刺激的に、ただ友達と何かやるというのではなく、そこに新しい何かを求めて活動していこうと考えて行動しています。メンバー間でも、そういった内容の話をすることも増えました。同じくらい昔の思い出話しもしていますが…(笑)。でもそのバランスは長く続けてきたからこそなので、嫌いではないです。

現在進行形バンドからの刺激

──2バンドとも長きに渡って地元(京都/札幌)に根付いた活動が印象的です。それぞれ昨今のバンドシーンはいかがですか?

山口僕らは今、京都ではなく全員が大阪に住んでいます。なので少し外から見た形にはなるのですが、京都のバンドシーンはいつの時代もとても刺激的です。大学がたくさんあるので、4年くらいのサイクルでバンドが入れ替わっていくこともあります。時代時代で、その世代を引っ張るバンドが現れるのも特徴で、今だとodd eyesやメシアと人人のようなバンドの存在は、あらゆる世代をつなぐとても大きなものになっていると思います。世代間みたいなものは、僕らがやり始めた頃よりももっとボーダレスになっていると思いますし、実力のあるバンドが出ていける土壌が作られているように思います。今の自分たちのテーマは、京都のそういった現在進行形のバンドもしっかりチェックしながら、今自分たちが住んでいる大阪にもその流れを持ち込んで、大阪でもイベントとかが出来たらなーと思って活動しています。

蛯名同じ感じかも。まあ自分は結局、3年間も地元を離れていたので何か言えるわけじゃないけど以前より良いバンドが増えたなぁって印象です。札幌だったらもちろんthe hatchやnessie、AZN、人生ズとか。道内ならNOT WONK、toilet、TG.Atlasとか他にも良いバンドがいっぱいいて刺激をもらってます。ひとえにSLANGが積み上げて来た地盤だってのは間近で見てきたつもり。

山口:札幌は行くたびに素晴らしいバンドと出会えてめちゃ刺激的です。

共鳴の確認

──discharming manは、SHELTERは約8年ぶりのご出演となります。特に印象に残っている思い出などあれば教えてください。

蛯名やっぱキウイ時代に「迷子の晩餐」で使わせてもらっていたので愛着があるし、札幌のカウンターアクションと同じぐらい育ててもらったと思ってます。当時店長が西くん(西村等:現・新代田FEVER)だったのもあってやりたい放題でしたね。あとバータイムに吉村さん(吉村秀樹)がみんなにいたずらしてまわってる風景が出てきます。

──また、10周年のインタビューでは、「もっとライブがしたい」とおっしゃっていましたが、今年の大まかな予定としてはいかがですか? 理想的な活動スケジュールは組めそうでしょうか。

蛯名なかなかどうして。自分も含め堅気の人たちで固めてるんで、スケジュール調整は難しいです。もう少し動員があれば逆にフットワーク軽く活動できるかもしれないけどまだまだですね。ホントはもっといろんな町に行ってやりたいです。でも年内にアルバムを出す予定なんで何か転機になればなんて。かなり他力本願ですけど。

──bedのライブでは、節目節目でSHELTERを選んでいただいていると思うのですが、数あるライブハウスの中でもSHELTERを選んでくれているのはどのような理由でしょうか?

山口これはもう単純に、自分たちにとって憧れであり、思いい入れの強いライブハウスだからということに尽きます。バンドをやり始める前、20歳になるかならないかの頃に観に行ったfOULの「砂上の楼閣」やキウイロールの「迷子の晩餐」ビデオや、活字で見るしかなかったNAHTの「learn it from lone」などのライブが行われた会場だからです。あの頃の自分が今のbedのライブをシェルターに観に来ていたとしたら、当時憧れたバンドたちに少しでも近づけているだろうか、と。シェルターでライブをするときはいつもそんなことを考えます。ライブの大切さに差はありませんが、シェルターでライブをするときはふと昔の感覚に戻るというか、いつも特別な感慨に耽る瞬間があります。

──2月16日のSHELTERでのライブはどんなライブになりそうでしょうか。見どころ、想いなどお聞かせください。

蛯名2マンは勝負って雰囲気があるけどあんまりそういうのはなくて。ただbedとは長い間共鳴してきたと思ってるからそれを確認したいというか、見届けてほしいです。

山口ただただお互いがやりたいだけやる。見た後に胸の奥に何か残るような、それは見に来てくれる人にも、演奏する僕らにも何か残るというか、そんな日に出来たらと思います。

蛯名物理的に長時間やるしね(笑)。

山口見る方も体力使うような2マンが理想です(笑)。

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