長きにわたって覚醒剤をやめることができたのは愛する女性の存在 その人が亡くなった途端に男は......

写真はイメージです

笠原真之(仮名、裁判当時54歳)は左手の小指が欠損していました。
中学卒業後、飲食店等の職を転々とした後暴力団の構成員になったという彼の経歴を見れば、小指を欠損している理由は容易に想像できると思います。逮捕時はもう暴力団は破門されていて、無職で生活保護を受けて生活していました。
彼には前科が9犯あり何度も服役を経験しています。9犯のうちの3つは今回受けている裁判と同じ、覚醒剤取締法違反です。

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前回の服役から出所してから約5年、彼はずっと覚醒剤を使わずにいました。その5年の間に何度も警察に職務質問され尿を任意提出させられましたがその結果は全て陰性でした。
以前はかなり覚醒剤に依存していたという彼が5年の間覚醒剤を断つことができた理由、それは細川(仮名)という女性と出会ったことです。
そして彼が再び覚醒剤に手を染めるようになった理由はその細川が亡くなったことでした。

「彼女というか、お姉さんのような、そんな存在でした」

彼の供述によれば、出所後に細川と出会ったようです。彼女もまた、覚醒剤に依存していた過去を持っていました。
もう暴力団を抜けていた彼は社会での居場所を失っていました。年齢、経歴、多数の前科...居場所が見つかるはずもありません。両親含め、親族とは全く疎遠になっていました。そんな彼を支えてくれたのが細川でした。

「細川さんの前では一度も覚醒剤を使ってません。もう細川さんも年だったし、クスリを嫌がっていました」

と供述していましたが、

「お互いにクスリを止めあうような関係でした」

とも話しています。
彼女もまた、彼と似たような境遇だったようです。どんなにやめようと固く決意しても何度も覚醒剤を使用し全てを失った女性でした。
元暴力団で覚醒剤常習者の彼と関わろうとするような人は彼女の他にいませんでした。彼を拒絶することもなく全てを受け入れてくれたのは、同じような苦しみを背負って生きてきた彼女だけでした。

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「細川さんは自分の目の前で亡くなりました」

その死因についての詳細は裁判では話されませんでしたが、彼は細川の最期を看取りました。

「今までそばにいてくれた人が急にいなくなって...心にポカンと穴が空いたような感じでした」

と、当時の心境を語っています。
細川は彼にとって、クスリを止めあうだけの関係ではなく、彼と一緒にいてくれる唯一の存在でした。他には誰も彼を一人の人格を持った人間として尊重して接してくれませんでした。

「細川さんが亡くなってしまったことが悲しくて、もう死んでしまっている細川さんのことばかりいつも考えていて...」

大切な人を喪った悲しみや孤独を癒してくれるもの、彼はもう覚醒剤しか思いつきませんでした。覚醒剤を止めてくれる人はすでにこの世にいません。彼は再び覚醒剤を使用するようになっていきました。
しかし、覚醒剤で癒しを得たとしても、その癒しが一時だけのものであることは彼にもわかっていました。

「あんまりいい効き目はなかったです」

今回使った覚醒剤についてはこのように話していましたが、それでも彼は昔のような覚醒剤に依存してしまう状態に戻っていってしまいました。

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彼に下された判決は懲役4年の実刑判決でした。
以前、違う被告人の覚醒剤裁判ですが裁判官がこんなことを言っていました。

「覚醒剤は、普通はやめられない」

覚醒剤は一度手を出せばそれほどまでに止めるのが困難なものです。ただでさえ止めるのが困難なのに繰り返すたびに支えてくれる人はいなくなっていきます。

もちろんそれは覚醒剤に手を出した人間の責任です。自業自得だと言われるのは仕方のないことかもしれません。

それでも覚醒剤を止めようと必死にもがいている人もいます。彼らの多くは再び同じ失敗を繰り返してしまいますが、だからといって彼らが社会から排除されるようなことがあってはなりません。孤独のまま生きていける人など誰もいないのです。(取材・文◎鈴木孔明)

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