「女性議員が増えることで、本当に、暮らしやまちは良くなるのか?」(小川晶群馬県議会議員へのインタビュー・聞き手:池田麻里)

2018年5月に成立した「候補者男女均等法」では、女性候補の割合を50%にするよう政党に努力義務を求めている。女性議員の増加は、政治や社会にどんな変化をもたらすのだろうか。

今回は群馬県議会議員の小川晶さん。無所属、2期目。地方議員にはまだ少数の弁護士資格をお持ちです。独身女性としての葛藤もお聞きしました。

今回お話を伺った群馬県議会議員の小川晶さん

法曹界の経験を県議会で活かす

-晶ちゃんは、そもそも群馬県の出身ではなかったですよね?

はい。出身は千葉県ですが、司法試験に合格後の司法修習の配属先が前橋地裁でした。なので、そのまま前橋市内の法律事務所に就職して。

勤務先に前橋市を選んだのは何か理由があって?都内にも千葉にも、法律事務所は沢山ありますよね?

私が弁護士登録した平成19年はちょうど司法制度改革でロースクールが始まったころで、司法試験の合格者が増えて、都市部の就職先が全くありませんでした。一方で、地方も地元のベテラン先生方が自分の職を守るために新人を採用しない地域も多くありました。あからさまに県外の人材を受け入れないところもありました。私がたまたま修習した群馬県は弁護士会の先生方が義理人情に厚い雰囲気で、歓迎してもらえたのです。

弁護士の就職活動ってどのようにするのですか?

一般企業と同じです。大きな事務所では説明会に参加して、エントリーして、書類選考があって、集団面接を受けてという流れ。(最近はまた都市部の求人が増えてきて、地方の法律事務所では募集をかけても人材が集まらないという話も聞きます。)

群馬県の弁護士会の先生方の雰囲気が良かったから、県内で応募しようと思ったんですね

そうですね。私が入った事務所は実は採用募集していなかったのですが、女性の弁護士を雇用している事務所でしたので、やはり働くなら同性のいるところが良いなと思い、無理やり押し込んでいただいたような形で(笑)

-一口に弁護士事務所といっても、得意分野は様々なのでしょう?知財、M&A、離婚や民事・・・色々ありますもんね。

都市部はそうですが、地方はだいたいどの事務所でも全般的に網羅していますね。町の中小企業で問題になりやすい法務であったり、家庭の問題であったり、刑事事件もやっています。

-弁護士としてのお仕事は2年くらい?

3年半くらいですかね。

-そこからなぜ、県議会に?

直接のきっかけは、弁護士会の先輩から「(当時の)民主党が県議会議員選挙の候補者を探して公募しているのだけれど、どうか?」と声がかかったことです。
私は当時、ドメスティックバイオレンス(DV)被害者の支援に多く携わっていました。また、湯浅誠さんの貧困キャラバンが全国で始まった頃で、子どもの貧困と教育格差のシンポジウムを弁護士会で開催したり、民法改正のロビー活動で国会を訪れたり、年越し派遣村に参加したり。弁護士会の中で、そうした政治的な動きを結構していました。特にDVに関しては、群馬県の女性相談所の体制が非常に遅れていることに対して、弁護士会から要望を出しても変わらなくて。子どもの貧困についても、教育長へいろいろ提案したものの結局進まず・・・。
そういう時に、県議会の中から動かす方法もあると教えていただいたので、それでは!と飛び込みました。騙されたというか、何も知らないから挙手してしまったという感じです(笑)

実はこの話には裏があって。当時、前橋市の民主党が県議会議員選挙の候補者を擁立しようと準備していたのが、選挙半年前の10月頃になって、その候補者が「やっぱり出られません」となったらしくて、でも民主党として誰かを擁立したい、落選しても問題のなさそうな医師か弁護士がいないかということで話が回ってきたそうです。

初当選が2011年でしたよね。民主党の政権交代後、結構大変な時期でしたよね?

参議院選挙で負け、消費税問題で菅直人さんが壊滅的になり、東日本大震災もあって、まぁ大変な時でしたね。厳しかった・・・。本当に、人じゃないような扱いでした。

最初の選挙は、誰かが具体的に選挙を運営したり、助言したりしてくれたの?

1回目は事務的なことや選挙カーの段取りは民主党議員の事務所がしてくださいましたね。もちろん資金は自分で出しましたが。私はとにかく選挙まで3、4ヶ月しかなかったので、毎日、ご挨拶まわり。

選挙の準備といっても何をしていいか分からない?

全く分からないですよね。特に何をするようにとも言われないので。とにかく二連ポスターを持って歩いて、毎日ポスターを貼ってという日々でした。朝の街頭演説と、ポスターだけずっとやっていました。

-新人の女性候補に対するまちの反応はいかがでした?

現在でもそうですが、女性が政治をやっているイメージが群馬にはあまりありません。しかも、若い人というとなおさら。

-驚かれるような感じ

その感じはありますよね。お話が出来て、弁護士ということを知っていただいてようやく少し印象が変わったというか。若いけど議会の中でもちゃんとやってくれそうだなと思っていただけたので。

日本の地方議会には法曹の方が少ないじゃないですか?そこに対して思うことはありますか?

少ないですね。もっと法曹界から入ってもらえたらありがたいです。群馬県議会では私と公明党所属の県議会議員のふたりです。

-法律家としての経験が議会活動に活きることはありますか

そうですね。
これは地方によって議会のレベル、議員さんの能力などに差があるかと思いますが、論理的な質問ができる議員は決して多くないと思います。きちんと調べたりせずにエビデンスも全く取らないまま、ご自分の持論のみで「どうだ?」って聞いちゃうというレベルなので。
もう一人の弁護士議員さんも、法律や条例などのバックボーンを調べ、論理立てて質問なさっているので、そういう点は大きいなと感じます。

議員提案条例に取り組まれたことはありますか

会派でというのはありません。群馬県議会では特別委員会などを作って政党関係なく議会として課題に取り組むやり方が多いです。

-どういう条例ですか?

議会基本条例や家庭教育の応援条例などです。自民党が家庭教育援条例を作ろうと全国でキャンペーンをしていた時に、せっかく作るなら「古き良き日本」ではなく科学的な、きちんと子育てのやり方を取り入れようと思って、特別委員会の中で素案を修正しながら作りました。あとは、手話言語条例とか、本当にフラットな感じで取り組んでいます。

保守王国-群馬の特徴

-群馬県議会には、市議会や町議会から上がってくる方が多いのでしょうか?業界団体の方とか?

業界団体はそれほどいません。市町村議会議員から上がってくる方と、国会議員の秘書経験者の方が多いですね。

-やはり、保守王国ですからね・・・。国会議員もたくさんいらっしゃいますもんね。そうすると、変な話、地元の先生を支えるために県議会議員になっている方もいらっしゃるのですか?

そういう方が圧倒的に多い気がします。
政党という組織の枠組みの中で上がってくる人と、地元の名士・権力者で上がってくる人が圧倒的に多いので、そういう男性は基本的に課題意識がありませんよね。

-陳情、要望はあるんでしょうけどね(笑)

群馬県全体の課題なのですが、本当に政治的にどんどん停滞していて、今回の県議選では18ある選挙区のうち、確実に選挙になるところが6区しかありません。前橋市と高崎市も無投票の可能性が高いです。オンブズマンのような候補者が出れば選挙になりますが、でも結果は既に明らかという感じです。

-うちの市では定数60名に対し、10名ほどが引退しますので約2割入れ替わります。
それくらい刷新されないと議会の雰囲気も変わらないのにと思います。

年号は変わるのにね(笑)

-新人の出馬が難しいのですね。

前回の前橋市議選も新人候補が少なかったですし、先日の昭和村議会議員選挙では、定数割れで再選挙になりました。組織に関係ない人は、突然出てきますが、ほとんどが誰かの後継者。

-陳情のやりとりが多いなどといった印象はありますか?それとも、2世3世で「わが村の殿様」のイメージなのかしら

殿様みたいなイメージですかね。

県議会にも2世3世の占める割合は、多い印象ですか?「政治ご一家」のような・・・。

ものすごく大勢いますよ!政治関係者が親族におられる方は非常に多いと思います。
今度の県議選でも、現市長が引退してその息子さんが出馬したり、元県議の息子さんが出馬したり、元県議の妻が出馬したり。

-それは特殊な環境ではないかと

群馬の選挙は経済的負担が大きいのではないでしょうか。経済面で余裕のある方ばかりな気がします。

-いわゆるってやつですね。金銭を要求されたことあります?

私自身はないです。もともと持っているものもありませんから(笑)。要求されても断るしかないですし。
これから選挙に挑戦する候補者と話をしていると「町内の名士からタオル持参での全戸挨拶回りを指示された」と言う方がいて!「違反で逮捕されるから辞めた方が良い」と慌てて止めたりしましたが、本当にそれが未だにまかり通っている地域もあるのか・・・と。

公職選挙法を分からないままに慣習を言われて従ってしまう人もいるでしょうね・・・。

知らないと流されてしまいがちですよね。いわゆる選挙ゴロのような人はいますから。

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