避難所・被災生活改善へ具体的アクションを (1)フォーラムの概要と今後の展望

被災地での給水支援。水を運ぶ作業は高齢の方にとって特に大きな負担となる(撮影:地域防災支援協会)

2018年10月15日に開催致しました「災害関連死ゼロフォーラム 第1回全国大会シンポジウム」について、本フォーラムの概要と今後の展望をご紹介致します。

■高齢化社会における新たな被害

2019年で30年続いた平成が終わり、まもなく新しい時代が始まります。(公財)日本漢字能力検定協会が1995年から選んでいる「今年の漢字」で、3回災害に起因する漢字が選ばれたことに象徴されるように、平成は時代を揺るがす自然災害が数多く発生しました。そのような背景の中で平成が始まった1989年では、高齢化率(総人口に占める65歳以上の人口割合)が約12%であったのに対し、2018年では約28%と、高齢化社会が進んでいます。復興庁が2011年にまとめた「東日本大震災における震災関連死に関する報告」では、災害関連死で亡くなられた方の約9割が70歳以上であったことを鑑みると、高齢化社会が進む中での新たな被害として、災害関連死が浮き彫りになってきたと言えます。

■災害関連死の対策は誰が行うべきものなのか

2018年11月1日に開催された衆議院の予算委員会で、自民党の岸田文雄議員から首都直下地震や南海トラフ地震における災害関連死の予防や取り組みに関する質問がありました。それに対して、山本順三・防災担当大臣からは、具体的に平成30年7月豪雨の派遣者数を紹介しながら、看護師、保健師、栄養管理士等のチームによる戸別訪問や巡回相談等の健康相談が可能な体制の確保を地方公共団体に促すことで、災害関連死で亡くなる方を一人でも少なくなるように対応を進めると答弁しています。

このように公助の中心となる医療機関等は、過去の教訓を踏まえた活動を進めておられます。一方で災害関連死への事前対策や発災後の対応を、国民ひとりひとりが認識し、進められているかというと如何でしょうか。「よくわからない」という感覚を持たれる方も多いのではないでしょうか。

■「災害関連死ゼロフォーラム」を設立した理由

(一社)地域防災支援協会では、(一社)日本環境保健機構と共催で、「みんなのアレルギーEXPO」や「災害時の住環境・生活環境EXPO」を開催してまいりました。その両EXPOに共通する問題として、例えば避難所におけるアレルギー食の提供や、仮設住宅等でのシックハウスの対策等を検討する中で、災害関連死という「いのちに関わる本質的な課題」に気づいたことが設立のきっかけとなり、民間事業者を中心として産業界や行政界、学術界の専門的な知見や対策を広く社会全般に発信すべく、2018年に発足したのが「災害関連死ゼロフォーラム」です。特に医療機関などの専門の先生方が中心となって対応を行っておられる現状から、誰もが災害関連死の問題を理解し、一人ひとりができる対策を進められる社会になることを目指しています。

■「災害関連死ゼロフォーラム 第1回全国大会シンポジウム」概要

2018年10月15日に東京都新宿区の京王プラザホテルで初めて開催した本全国大会シンポジウムでは、避難所や避難生活で災害関連死をなくすためにどうするかをメインテーマとし、3つの専門セッションを行いました。

 

 

 

特に心がけた点として、何か一つでも具体的な気づきや対策として進められるアクション部分を生み出せるようにセッションの組み立てを行いました。そのために本フォーラムでは、個別対策を検討するための「会議・研究会制度」を設けています。

具体的に(1)被災地の実態は避難所・避難生活研究会が担当し、避難所や避難生活を行える人づくりを目指して「さすけなぶる」と呼ばれる避難所運営シミュレーションによる学習や、「避難所再現エリア」による具体的なイメージ醸成を行いました。(2)環境衛生は防災衛生会議が担当し、「防災衛生パーソナルキット」による個人でできる脱水状態や感染症への対策方法をお伝えしました。(3)生活継続は発起・共催団体である地域防災支援協会と日本環境保健機構が担当し、災害復興法学IIなどの各種書籍を基に、制度上の多角的な側面でお伝えしました。

「災害関連死ゼロフォーラム 第1回全国大会シンポジウム」の様子(出典:YouTube)

■今後に向けて

今回の全国大会シンポジウムでは、避難所や避難生活という側面から、3つのセッションに絞って皆様と一緒に具体的な対策のアクションを進めるきっかけ作りを行うことができました。この機会を通じて私が最も強く課題と感じた点は「災害関連死につながる避難所や避難生活の状態がイメージできていない」「そのため具体的な対策のアクションにつながっていかない」部分です。したがって、例えば(2)環境衛生の「防災衛生パーソナルキット」を使った対応のように、「脱水状態等の危険性があるので、まず経口補水液を自分で作って飲むようにしよう」「感染症をうつさない、もらわないようにするために、まず自分で正しくマスクを付けるようにしよう」「口腔免疫を保つために、まず自分できちんと歯みがきを行おう」といった、誰もが分かるような対策のアクションを示し、その重要性に気づく機会を作るという流れが大切であると感じました。

防災衛生を学ぶため、子どもも大人も粉末タイプの経口補水液を使って実際に飲んでみる(写真:地域防災支援協会)

次回の全国大会シンポジウムは、2019年10月29日(火)に開催を予定しております。特に高層住宅や訪日外国人も含めた帰宅困難者など、大都市部における災害関連死をなくすためにどうするかを検討したいと考えております。災害関連死ゼロの社会づくりに向けて、是非多くの皆様からのご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

■参考文献・関連サイト

災害関連死ゼロフォーラム 第1回全国大会シンポジウム
http://bosai-expo.jp/event/zeroforum.html

防災衛生会議
http://bosai-eisei.jp/

避難所運営シミュレーション・さすけなぶる
http://www.sasuke-nable.com/

復興庁・震災関連死に関する検討会「東日本大震災における震災関連死に関する報告」(2012年8月21日)
http://www.reconstruction.go.jp/topics/20120821_shinsaikanrenshihoukoku.pdf

衆議院・第197回国会 予算委員会 第2号会議録(2018年11月1日)
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/001819720181101002.htm

岡本正「災害復興法学II」(慶應義塾大学出版会 2018年)
http://www.risktaisaku.com/articles/-/9384

(了)

 

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