平成の次の時代へ。通常国会での演説と野党の代表質問は時代の変化とどう向き合ったのか(安積明子)

安倍首相の演説

通常国会初日の1月28日午後、衆議院で安倍晋三首相の施政方針演説が行われた。46分間の演説は、「御代替わり」で始まった。安倍首相は「平成」の典拠となった書経に触れ、苦難を克服してきた歴史を象徴すべく、明治天皇の御製歌を引用した。いずれも時代の節目を意識した構成で、「平成の先の時代」を意識したものだ。しかしながら施政方針演説は、長期政権の弛みと政権末期の焦りが垣間見る内容だった。

野党の代表質問

だがそれを野党が批判しきれていないのが問題だ。特に立憲民主党の枝野幸男代表は、30日に代表質問に立った時、約1時間もの質問時間のほとんどを内政批判に費やした。立憲民主党は政権を狙う野党第一党としての責任があるはずだ。ところがこれほど国外が多難な時代に、北方領土問題以外の質問はしなかった。
枝野氏が質したのは、北方領土は一度も外国の領土になったことのない我が国固有の領土であると思っているのか、そしてロシア側にその認識を確認しているのかという点だ。いずれも従来の政府見解に変化がないのかどうかという確認で、目新しいものではない。

枝野代表が指摘したこと

そもそも枝野氏が北方領土について質問したのは、1月22日に行われた日ロ首脳会談が事実上の失敗に終わったからだ。会談に先立ちロシア側は、日本側が主権問題を持ち出すことを禁じた他、「北方領土」という文言の使用すら認めなかった。実際に安倍首相は施政方針演説で「領土問題を解決して平和条約を締結する」と言及したが、「北方領土」とは述べていない。枝野氏の質問に対する答弁でようやく「北方領土」と述べたものの、「固有の領土」とは言わなかった。

しかし枝野氏の質問は北方領土に関する安倍首相の弱みを突いただけで、日本の国益を総じて俯瞰したものではない。外交問題は対ロシアの他、朝鮮半島や中国、アメリカなどもある。

与野党が示した韓国への姿勢

とりわけ重要なのは韓国との関係だ。文在寅政権下の韓国は昨年1年間を見ても、慰安婦合意の事実上の破棄、1965年の日韓請求権協定を無視した元徴用工判決、そして12月の海軍駆逐艦による海上自衛隊機へのレーダー照射事件など、およそ「友好国関係」とはいえないような問題ばかり起こしている。
特にレーダー照射問題は、日本国民のほとんどが怒っている。1月に行ったフジ産経グループの世論調査でも、日本を一方的に責める韓国の主張について9割が「納得できない」と答えている。

安倍首相の北朝鮮への変化

もっとも安倍首相は施政方針演説でほとんど韓国を無視した。その一方で北朝鮮については初めて「国交正常化を目指す」と明言。これまでの論調からいきなり180度変化してみせた。

北朝鮮については昨年6月、米朝首脳会談が実現した。だがこれをもって北朝鮮の非核化が実現したとは言い難い。今年2月末に第2回米朝首脳会談が予定されているが、アメリカは経済制裁を止める様子はない。

それなのに、北朝鮮と何も交渉していない日本がいきなり「国交正常化を目指す」とするのは不自然だ。国民民主党の玉木雄一郎代表は韓国が瀬取り問題を指摘し、国内法整備を求めたが、肝心の日本政府の北朝鮮に対する方針についての質問はなかった。

しかしながら政権を獲ろうとする野党なら、その矛盾を追及すべきだった。日本と北朝鮮の間には長年にわたる邦人拉致問題が存在し、韓国以上に関係構築が難しい。たとえ北朝鮮がアメリカに近寄ろうとも、それだけで治癒される問題ではないはずだ。

時代は変わり、世界も変わるが、日本の政治のみがそれに追いついていないのではないか。

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