災害関連死防止へ法制度での担保を (2)法政策上の課題

災害関連死と災害弔慰金の論点について話す岡本氏

2018年10月13日に開催された「第1回災害関連死ゼロフォーラム」の「専門セッション3:生活継続」では、「災害関連死とはそもそも何か 法政策上の課題」と題してお話しをさせていただきました。その概要と今後の展望について簡単にまとめます。

■災害関連死とは何か

災害関連死とは、災害による直接死亡以外で、災害と相当因果関係のある死亡をいいます。災害がなければ死期は早まることはなかった、災害がなければそのような死亡経過はたどらなかった、といえるかどうかを判断します。一度は助かった命が、災害を原因として失われてしまうという「救えたはずの命」があったことを意味しているのです。災害弔慰金の支給等に関する法律には、「災害により死亡した者の遺族に対して支給する災害弔慰金」という条文があります。直接死のみならず災害関連死も対象となっていることがわかります。災害関連死かどうかは、災害弔慰金の支給の有無につながります。ちなみに、災害弔慰金は、ご遺族に対して500万円または250万円が国費で支給されます。

■災害関連死の認定方法は

災害関連死かどうかの判断は、災害と死亡との間に、関連性(因果関係)があるかどうかという法的評価です。死亡に至る内部的・外部的な様々な要因を考慮して、総合的に評価判断するのです。注意したいのは、医学上の死因診断結果は、考慮事項の一つにすぎず、それだけで因果関係を判断することは決してできないということです。例えば、死因は「胃がん」とのみ記載されているとしても、災害が死期に影響していたり、自宅療養していたはずが病院で亡くなってしまったり、なども十分に関連死となり得ます。実務上は市町村が災害弔慰金支給審査委員会(審査委員会)を組織し、有識者らの会議体で災害弔慰金を支給するかどうか(災害関連死かどうか)を決定します。

■災害関連死かどうかは市町村自らが判断すべき

災害関連死かどうか、すなわち災害弔慰金の支給対象かどうかは、市町村が独自に審査委員会を組織して判断すべきです。都道府県に判断を委託するとか、「全国一律の基準で公平性を」という意見は実は正しくありません。なぜならすでに述べたように、災害関連死かどうかの判断は、亡くなった方の生前の生活状況・既往症、被災状況、地域の医療資源の被災状況、避難所での生活状況、仮設住宅の状況など、地域独自の事情を総合的に考慮すべきなので、「一律の基準」のようなチェックリストは作りようがないのです。災害ごとに、判断すべき要素も大きく変わりますので、仮に基準のようなものができても、次の災害では流用できないのです。また、地域の実情がわかる方が関与することのほうが効率的ですし、被災地外の人間だけで判断することは、不支給決定に際してのご遺族の納得も得られない可能性が高いと思われます。市町村の負担を考慮すると都道府県に判断を任せても仕方がないという意見もありますが、実務上は、結局地元の市町村に調査委託や資料収集をお願いすることになるので、負担は都道府県に委託しても決して軽くはならないという、東日本大震災後の検証報告がありました。

■全国のデータ収集・事例公表で災害関連死を防ぐ

災害関連死を防ぐためには、災害弔慰金の支給・不支給に関わらず、亡くなってしまった方が災害前にどのような生活をし、災害によってどのように変わってしまったのかを詳細に分析すべきです。どうすればその命を救うことができたのかという視点で、どのような対策が採られていればその死を防ぐことができたのかを具体的な事例で明らかにしなくてはなりません。ただし、これらはセンシティブな個人情報であり、市町村単位での公表分析では、個人が特定されてしまう可能性もあります。

そこで、国が事例を全国の市町村から集め、医学のみならず、法学的視点、福祉的視点など多様な分野の専門家による調査機関を組織し、死亡原因、死亡に至る経過、今後の課題等を個別の事例ごとに十分に分析し、結果を匿名化して公表すべきです。なお、現在の各市町村の個人情報保護条例の解釈でも、国に遺族の同意なくして情報提供できる手法はありますが、全事例を漏れなく収集するには、特別立法によって国が事例収集できるようにすべきと考えます。これにより、例えば、温かい食事の供給、段ボールベッド設置、清潔なトイレ環境等の必要性等が浮かび上がることでしょう。分析結果は、災害救助法の定める救助基準のボトムアップにもつながります。事前の準備のための予算措置が十分になされることが重要です。

■災害関連死ゼロフォーラムで国民的議論を

阪神・淡路大震災の兵庫県の死亡者総数6402人のうち919人、新潟県中越地震では死亡者総数68人のうち52人、東日本大震災では死者1万9630人のうち3676人、熊本地震では死者267人のうち212人が災害関連死です。助けられたはずの命をどうしたら救えるのか、技術的や医学の向上も不可欠ですが、避難所環境向上や仮設住宅環境向上のためには、災害救助法をはじめとする法制度による担保もまた不可欠であることを今後多くの皆様に知っていただきたいと考えています。

■参考文献・関連記事

岡本正「災害復興法学II」(慶應義塾大学出版会 2018年)
http://www.risktaisaku.com/articles/-/9384

リスク対策ドットコム「災害関連死458人 南相馬市長が現状訴え 日弁連シンポジウム」(2014年9月3日)
http://www.risktaisaku.com/articles/-/971

日弁連「震災関連死の審査に関する意見書」(2013年9月18日)
https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2013/130918.html

日弁連「災害弔慰金支給申請に対する結果通知の運用に関する意見書」(2017年3月16日)
https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2017/170316_3.html

日弁連「災害関連死の事例の集積、分析、公表を求める意見書」(2018年8月23日)
https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2018/180823_3.html

(了)

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