機動力の底上げ狙う巨人期待の7選手 “走塁のスペシャリスト”が授ける知恵とは

巨人・松原聖弥【写真:Getty Images】

新任の鈴木尚広コーチにかかる期待

 巨人はオフの補強で投手、捕手、外野手、外国人選手とウイークポイントを埋め、戦力を整えた。そこに熾烈な競争を勝ち抜いた若き才能が加われば、5年ぶりのV奪回も十分にあり得るだろう。

 今季はもちろん来季以降も優勝争いを狙えるチーム作りを進める過程で、特に底上げを図りたいのは未来のローテを担う投手と、足を生かした機動力だ。そのうち走塁に関しては、秋季キャンプから首脳陣は高い意識を持つように選手に指示。スピード自慢の若い選手たちは、新シーズンに向けて技術向上に取り組んでいる。

 そんな若手選手たちにとって大きな道標となるのは、現役時代に走塁のスペシャリストとして活躍した鈴木尚広新1軍外野守備走塁コーチが、これまで積み上げてきた感覚から紡ぐ言葉だ。

 鈴木コーチは2016年を限りに現役引退後、盗塁や走塁に関するインタビューや講演活動をする中で、一番好ましくないのは「挑戦しないこと」と繰り返し、言い続けてきた。

「盗塁は失敗するようにできています。投手が完璧なクイックモーションで投げ、捕手が正確なスローイングをすればアウトになります。その中で相手の癖を見抜いたり、スキを突く。スタートを切らなければ何も始まりません」

 捕手の捕球ミスや、送球時にボールの握り替えで生じるタイムロスも、走者がスタートを切らなければ起こらない。鈴木コーチは現役時代、盗塁成功数228個。晩年はシーズン終盤、盗塁が警戒される中で代走として登場し、日本記録となった132個の代走盗塁を決めた。228盗塁という記録は、数々の「挑戦」と試行錯誤を繰り返し、積み重ねていった。鈴木コーチは原辰徳監督にその脚力を見いだされ、才能を開花させたが、現役中に盗塁に失敗して叱責されたことは一度もないという。自分で考えて、トライして、表れた結果だったからだ。多くの盗塁成功の陰には、首脳陣との信頼関係も存在していた。

吉川尚、松原、重信…走塁に期待の若手は?

 足の速さと走塁力は違う。足が速くても、状況判断ができて次の塁に進む意識がなければ、武器にはならない。ただ、足が速ければ、考え方次第でスペシャリストになれる可能性はある。

 巨人にはセカンドのレギュラーを狙う吉川尚輝内野手、外野の定位置争いに割って入りたい重信慎之介外野手、昨年、育成選手から支配下登録された松原聖弥外野手、昨季シーズン6盗塁の2年目・田中俊太内野手、イースタン・リーグで11盗塁を決め、脚力を生かした守備も期待の増田大輝内野手、経験のある立岡宗一郎外野手、吉川大幾内野手といった、走力を期待できる7人の若武者がいる。もちろん全員がレギュラー獲りを目指すが、数に限りのある枠。だが、バックアップメンバーも含めチーム全員が高い意識を持ち、与えられたチャンスで才能を生かすことで強いチームは形成される。

 盗塁のスタートを切ることに対する恐怖心はゼロにはならないだろう。限りなくゼロに近づけるためには、数多くの練習や経験を積んで、自信になる要素を増やすしかない。そこには技術的要素だけでなく、メンタル的要素も大きく関わってくる。また、走塁で頭抜けた存在になるには、全体練習だけでなく、個々の取り組みがカギとなり、自信となるはずだ。

 足でかき回して、接戦で1点を奪い取る――。鈴木コーチが現役時代に見せたような、相手に脅威を与え、接戦でチームを勝利に導く走りを、ファンは心待ちにしている。(Full-Count編集部)

© 株式会社Creative2