手足も顔もない仏像とは

朽ち果てた姿、でも地域の「家族」

©株式会社全国新聞ネット

「びわ湖長浜 KANNON HOUSE」で展示されている「いも観音」=東京・上野

 手足はなくて顔もない。それでも仏像―。滋賀県長浜市木之本町の安念寺に伝わる「いも観音」が、東京・上野の「びわ湖長浜 KANNON HOUSE」で展示されている。戦火を逃れるため、土の中に埋められては掘り出されてきたというその姿は原形をとどめない。そんなぼろぼろの姿でも、地域の人たちに大切に守られてきた仏像の魅力に迫ってみた。(共同通信=松森好巨)

 「いも観音」は安念寺に伝わる10体の朽ちた仏像の通称だ。今回展示されているのは天部形立像(高さ約95センチ)と如来形立像(同93センチ)の2体で、どちらも平安時代後期(11世紀ごろ)の作とみられる。戦国時代、合戦の舞台となった同地で、村人たちが田んぼに埋めて隠す際に大きく破損し、今のような姿になったと伝承されている。

天部形立像(左)と如来形立像。ガラスケースの中に並べて展示されている

 土に埋めたからその名が付いたと思いがちだが、「高月観音の里歴史民俗資料館」(長浜市)の学芸員佐々木悦也さん(58)によると、江戸時代に「いもがさ(疱瘡)」に効験のある仏として信仰されたことから「いも観音」と呼ばれるようになった説が有力という。ただ、ありがたい仏として祭られていただけではなく、戦前までは子どもたちが川に浮かべて水遊びをするなど、身近な存在として親しまれてきた。

2017年11月から2カ月間展示された千手千足観音立像(「びわ湖長浜 KANNON HOUSE」のHPから)

 「KANNON HOUSE」は数多くの観音像が現存する長浜市が2016年3月に開いた情報発信拠点で、2カ月交代で展示される観音像が目玉だ。これまで13体が同市から〝出張〟していて、いずれも表情は豊かで姿も様々。その中には「千手千足観音立像」のようなインパクト十分の仏像も展示されてきた。

 一方で、今回のいも観音は遠目から見ると「マネキン?」と見間違うような素朴な見た目。手や顔がたくさんあったり、鮮やかな彩色が施されたりといった仏像らしい特徴はない。

 〝難易度〟は高めのようだが、鑑賞のこつはどんなところにあるのだろう。長年、観音像の研究に携わってきた佐々木さんは「特に決まりはありませんが」と前置きしつつ、次のように話してくれた。

 「いも観音はたんなる壊れた仏像ではありません。どんなに朽ちていても、地域の人たちはかけがえのない家族のように守り伝えている。そのことを念頭に見てもらえれば」

 さらに、自身の経験に照らして以下のように続けた。

 「私も好きな仏像がありまして、これまで50回、60回とみてきましたが、毎回違った表情をみせます。これは、見ている私の気持ちが変化しているのでしょう。仏像は見る人を照らす鏡でもあると言います。仏像に会うことは自分に会うことでもあるのだと思います」

 佐々木さんの言葉を聞いた後、いも観音に再び会いに行った。カメラを手に様々な角度からじっくりと眺めていると、光の加減か、表情がないはずなのにどこか笑っているようにも見えてきた。

 いも観音は3月17日まで「びわ湖長浜 KANNON HOUSE」で展示されている。入場は無料(月曜休館)。写真撮影も可能。2月17日には佐々木さんによるギャラリートークが午前11時と午後2時の2回開かれる(無料、予約不要)。

「びわ湖長浜 KANNON HOUSE」で展示されている「いも観音」=東京・上野