いったいなぜ?「保守分裂」が続発する異常事態に!統一地方選挙注目ポイント―知事選挙編

4年に一度の統一地方選挙が今年4月に迫っています。このタイミングで都道府県知事選、市区町村長選、議員選といった全地方選挙の27%を超える973の選挙が実施される見込みとなっています。その中でも北海道、福井県、奈良県、三重県、鳥取県、島根県、徳島県、大分県、福岡県の9道県で実施される知事選挙のうち4つの選挙(福井県島根県徳島県福岡県)で保守陣営が分裂する見込みとなっており、今から波乱の展開が見込まれています。前回2015年の統一地方選では現職候補が全員当選した知事選挙ですが、今回はなぜこのような状況になっているのでしょうか。それぞれについて詳しく見て行きましょう。

知事・元副知事の争い―福井県知事選挙

過去3回の選挙でいずれも80%以上の得票率を記録して圧勝を遂げている現職の西川一誠氏に対し、西川氏と同じく総務省出身で副知事を勤めた杉本達治氏が県知事選挙に名乗りをあげました。両者とも自民党に推薦願いを出しましたが、自民党福井県連は党本部が「推薦は3期まで」と規定していることを根拠に杉本氏の推薦を党本部に上申しました。しかしながら自民党本部は杉本氏に対しては「推薦」ではなく「支持」を出す方向で動いていると見られており、保守陣営内での分裂が伺える状況です。その一方で西川氏は連合福井の推薦を獲得しています。
一方、現時点で政治的な課題について両者に大きな対立点は見られず、今後選挙が近づくにつれて有権者に対してどのようにアピールできるかが両陣営にとって課題になりそうです。
この選挙には共産党も独自候補を擁立する見込みの他、福井県議の中井玲子氏が立候補を表明しています。

44年ぶりの保守分裂に!―島根県知事選挙

島根県知事選挙は現職の溝口善兵衛氏が2017年から食道がんで入退院を繰り返すなど体調不良で引退を決意しました。これを受けて県議会の中堅・若手グループが早くから擁立に向けて動いていた元県政策企画局長の丸山達也氏は1月17日に立候補を表明しました。さらに、国会議員で自民党島根県連会長の竹下亘氏が中心となって元消防庁次長の大庭誠司氏を擁立し、党の推薦も取り付けました。「東京主導」で決まった大庭氏の推薦に対して地元の自民党員の中には納得できないという声も少なくなく、保守分裂は確定的となっています。
また、立候補に向けた動きを見せていた安来市長を3期務めた島田二郎氏は、自民党が大庭氏に推薦を決めたことを受けて再検討していましたが2月4日、立候補を表明しました。

ちなみに44年前は、島根県選出の自民党代議士4名のうち、櫻内義雄、大橋武夫、細田吉藏の県政反主流派の各氏が推した山野幸吉氏と県政主流派の竹下登氏が野党社会党と手を結んで擁立した恒松制治氏(無所属)が激しい戦いを繰り広げ、僅差で恒松氏が競り勝ちました。

1975年4月13日投開票
島根県知事選挙
恒松制治 無所属 237,730票 当選
山野幸吉 無所属 232,013票
宮田安義 共産 18,970票

自民党内の代理戦争か?―徳島県知事選挙

徳島県知事選挙は5回目の当選を目指す現職の飯泉嘉門氏と、県議会議員の岸本泰治氏が立候補を表明。岸本氏は県選出の衆議院議員である後藤田正純氏が支援に回っていますが、自民党県連(会長:山口俊一衆議院議員)は現職の飯泉氏に推薦を決定しています。飯泉氏はこれまでの実績をアピールする一方、岸本氏は現職の多選による弊害を主張。自民党内でも非主流派の石破派に所属している後藤田氏はFacebookで現職知事を批判するコメントを繰り返し投稿していますが、ここでも有権者にわかりやすい具体的な争点は示されていません。
共産党もこの選挙に独自候補を推薦する見込みですが、現時点で具体的な名前はあがっていません。

麻生・高島連合と現職知事の争い―福岡県知事選挙

福岡県知事選挙は現職の小川洋氏が3選に向けて立候補を決めているのに対し、自民党県連は公募で決定した元厚労相官僚の武内和久氏の推薦を決定。この公募は麻生太郎副総理の主導で進められたと言われています。
2016年の福岡6区補欠選挙で、麻生氏が推す県連会長の長男である藏内謙氏と、議席を守っていた鳩山邦夫氏の次男である鳩山二郎氏らが立候補した際に、小川知事はいずれの候補の応援にも回らず、結果藏内候補は法定得票数を下回る大惨敗を喫します。これ以降、麻生氏と小川氏の関係は悪化。また、人気の高い福岡市長である高島宗一郎氏とも宿泊税の導入を巡って対立を深めています。
また、この選挙でも共産党が独自候補の擁立に向けて動きを見せている他、九州大学教授の谷口博文氏も立候補を表明しています。

いずれのケースも大きな政治的な争点を巡って議論が深まっているわけではなく、保守陣営内の私怨とも言えるようなことが対立の軸になっていると言えます。権力者同士の抗争ではなく、それぞれの選挙で有権者にどれだけ真面目に各地域の政治課題について、その解決策を政策で訴えることができるかによって投票率にも大きく関わってくると思われますので、各陣営には県民目線で議論を深めていってもらいたいと思います。
また、今回取り上げたどの選挙でも野党の存在感が非常に薄いのも特徴的です。地方ではたとえ自民党系の組織が分裂していたとしても、間を野党系の組織が割って当選を目指すことが難しいくらい保守の支持層が厚いことが良くわかります。ただ、同時期に行われる地方選挙や夏の参議院議員選挙に向けて、これらの選挙をどのように位置付けるか、野党支持者の票はどこに流れるのかについて分析をする必要が出てくることでしょう。

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