トヨタ プリウス(2018年MCモデル) 試乗│幅広い性能向上で価値を高めたハイブリッドの代名詞

トヨタ プリウス(2018年マイナーチェンジモデル) グレード:A “ツーリングセレクション”(2WD)/ボディカラー:ブルーメタリック

「現行プリウスは不人気」を改善すべく、ハイブリッドの代名詞がマイナーチェンジ

トヨタ プリウス(2018年マイナーチェンジモデル) グレード:A “ツーリングセレクション”(2WD)/ボディカラー:ブルーメタリック

2018年(暦年)の小型/普通車販売ランキングは、1位が日産 ノート、2位はトヨタ アクア、3位はトヨタ プリウス(PHVとαを含む)であった。プリウスは3ナンバー車では販売1位で、売れ筋グレードの価格が250~300万円に達することも考えれば、販売実績は好調といえるだろう。

ところがトヨタはプリウスの販売台数に不満があり、世間的にも「現行プリウスは不人気」と悪口をいわれる。その理由は超絶的に売れた先代型と比較されるからだ。

現行プリウスは2015年12月に発売され、2018年の登録台数は1ヶ月平均で9622台であった。これに比べて先代プリウスは、2009年5月に発売され、現行型と同じ3年後の2012年には1ヶ月平均で2万6473台を登録していた。

トヨタ プリウス(2018年マイナーチェンジモデル) グレード:A “ツーリングセレクション”(2WD)/ボディカラー:ブルーメタリック

つまり現行型の売れ行きは、先代型の約36%にとどまる。たとえ小型/普通車の3位でも、プリウスとしては不満なのだ。

ちなみにアクアは2011年12月に発売されたから、2012年は新型車だったが、1ヶ月平均の登録台数は2万2214台で先代プリウスを下まわった。発売直後のアクアには、内装の質やノイズに不満があったが、それにしても先代プリウスには勢いがあったわけだ。

逆に今は、2015年に発売されたプリウスが、設計の古いアクアに負けている。トヨタの販売店によると「先代プリウスのお客様がアクアやC-HRに乗り換えて、売れ行きを下げた面もある」という。それでもプリウスの魅力が薄れたことに変わりはない。

外観や安全装備の変更など、マイナーチェンジでどれほど魅力を高めたのかチェック!

トヨタ プリウス(2018年マイナーチェンジモデル) グレード:A “ツーリングセレクション”(2WD)/ボディカラー:ブルーメタリック

そこでプリウスは2018年12月にマイナーチェンジを実施した。不評の原因として外観のカッコ悪さも挙げられていたから、フロントマスクやリアビュー、アルミホイールのデザインなどを変更した。外装色はブルーメタリックとエモーショナルレッドIIを加え、内装ではブラックの装飾を加えた。

機能面では安全装備を変更している。以前は緊急自動ブレーキを作動させるトヨタセーフティセンスが、SとEグレードではオプションだったが、改良後は全車に標準装着された。

後方車両との衝突を避ける機能としては、従来からのブラインドスポットモニターに、リアクロストラフィックアラートをオプションで加えている。

この後方に向けた安全装備は、従来と同じくA以上のグレードでないと装着できない。安全装備は、乗員や周囲の人達の生命や健康を左右するから、SとEを含めた全車に標準装着するのが理想だ。それが無理なら、せめてオプションで選べるようにして欲しい。

トヨタ プリウス(2018年マイナーチェンジモデル) グレード:A “ツーリングセレクション”(2WD)/ボディカラー:ブルーメタリック
トヨタ プリウス(2018年マイナーチェンジモデル) グレード:A “ツーリングセレクション”(2WD)/ボディカラー:ブルーメタリック

昨今のトヨタは通信サービス(トヨタ コネクティッド)に力を入れている。クラウンやカローラスポーツと同様、新型プリウスにもDCM(専用通信機)を全車に標準装着した。オペレーターによるサービスもあり、エアバッグが作動すると、自動的に位置情報と併せてヘルプネットセンターへ通報する。オペレーターが呼びかけてもドライバーの応答がない時などは、警察や消防への取り次ぎも行う。乗員自身がヘルプネットスイッチで、緊急対応を依頼することも可能だ。便利に使える各種のサービスも実施され、3年間は使用料金が無料付帯される(4年目以降は消費税抜きで年額1万2000円)。

このほか「おくだけ充電」のスペースを拡大して大型スマートフォンに対応したり、Aプレミアムの運転席と助手席に、シートベンチレーション機能も採用した。

そこでプリウスはマイナーチェンジでどれほど魅力を高めたのか、試乗を行って確認した。グレードはAツーリングセレクション(300万6720円)であった。

度重なる内外装の変更により「今のトヨタは大丈夫か」と少し心配になる

トヨタ プリウス(2018年マイナーチェンジモデル) グレード:A “ツーリングセレクション”(2WD)/ボディカラー:ブルーメタリック

まず販売不振の原因とされたフロントマスクだが、少し違和感を解消したものの、あまり変わり映えがしない。

2017年2月に発売されたトヨタ プリウスPHVの開発者は「プリウスのフロントマスクは、評判が良くないので、PHVは一般的な形状にした。またプリウスとPHVの違いを明確に表現することにも配慮した」とコメントしている。PHVの個性を尊重すると、プリウスのフロントマスクをPHVと同じ形状にはできないが、もう少し精悍で馴染みやすい形状にする手はあっただろう。

リアビューは、フロントマスクに比べてデザインの変更度合いが大きい。個性の強かった縦長のテールランプを横長に改め、PHVの形状に近づけた。

外観は人によって印象が異なるから写真で判断していただきたいが、フロントマスクを見る限り、売れ行きを大幅に改善するほどの変化ではないだろう。

トヨタ プリウス(2018年マイナーチェンジモデル) グレード:A “ツーリングセレクション”(2WD)/ボディカラー:ブルーメタリック
トヨタ プリウス(2018年マイナーチェンジモデル) グレード:A “ツーリングセレクション”(2WD)/ボディカラー:ブルーメタリック

内装は発売時点では、上級グレードのフロントコンソールトレイが乳白色で洗面器などを連想させ、ブラックの内装ではコントラストも強かった。そこで2017年11月の一部改良で、ブラックの内装には、光沢のあるピアノブラックのフロントコンソールトレイを組み合わせた。

これを2018年12月に再び改め、乳白色のフロントコンソールトレイは完全に廃止した。ピアノブラックか、普通のブラックになる。

以上のような内外装の変更を見ると「今のトヨタは大丈夫か」と少し心配になる。発売時点のフロントコンソールトレイは、見た人のほぼ全員が「この色彩はおかしい」と感想を漏らしたからだ。社内のデザイン的なチェック機能が働いていないように感じた。

トヨタ プリウス(2018年マイナーチェンジモデル) グレード:A “ツーリングセレクション”(2WD)/ボディカラー:ブルーメタリック

発表はないものの、マイチェンモデルは直進時を含めて安定性が高まった

トヨタ プリウス(2018年マイナーチェンジモデル) グレード:A “ツーリングセレクション”(2WD)/ボディカラー:ブルーメタリック

プリウスのマイナーチェンジに関する報道発表資料には、走行性能の改良は記載されていないが、試乗すると違いを感じた。以前は車両の向きが比較的軽快に変わる半面、危険を避ける時などは、状況に応じて後輪の接地性が下がりやすかった。今のクルマでは珍しく、前後輪のグリップバランスが前寄りに感じたが、マイナーチェンジ後は改められている。以前に比べて機敏なスポーティ感覚は薄れたが、直進時を含めて安定性が高まった。下り坂のカーブでブレーキングを強いられた時も、車体の姿勢が不安定になりにくい。

ハンドルを回し始めた時の手応えもしっかりして、操舵角に対して車両が正確に向きを変える。安定性の向上と併せて走りの質を高めた。

乗り心地は時速40km以下で走ると少し硬さを感じるが、それ以上であれば、快適とまではいえないが特に不快な印象も受けない。

トヨタ プリウス(2018年マイナーチェンジモデル) グレード:A “ツーリングセレクション”(2WD)/ボディカラー:ブルーメタリック
トヨタ プリウス(2018年マイナーチェンジモデル) グレード:A “ツーリングセレクション”(2WD)/ボディカラー:ブルーメタリック

ただし試乗した17インチタイヤ装着車と15インチのグレードでは、硬さが違う場合があるから注意したい。試乗車のタイヤサイズは215/45R17で、銘柄はヨコハマ・ブルーアースGT。指定空気圧は前輪が220kPa、後輪は210kPaであった。購入する時は、両方のサイズを乗り比べると良い。

直列4気筒1.8リッターエンジンをベースにしたハイブリッドシステムの動力性能は、基本的に以前と同じだ。ノーマルエンジンに当てはめると2リッターに相当するが、モーターの駆動力に比較的余裕があるから運転しやすい。巡航中にアクセルペダルを踏み増した時など、素早く反応して速度を滑らかに高める。

アクセルペダルを深く踏み込むとノイズが拡大するが、耳障りではなく、通常の走行領域では音量、音質ともに気にならない。

フロントマスクはいまひとつながら、それ以外は幅広く向上し価値を高めた

トヨタ プリウス(2018年マイナーチェンジモデル) グレード:A “ツーリングセレクション”(2WD)/ボディカラー:ブルーメタリック
トヨタ プリウス(2018年マイナーチェンジモデル) グレード:A “ツーリングセレクション”(2WD)/ボディカラー:ブルーメタリック

価格は、試乗したAツーリングセレクションが前述の300万6720円だ。マイナーチェンジ前に比べて7万9920円値上げされたが、DCM(専用通信機)が3年間の使用料金を含めて追加装着され、運転席の電動調節機能も加わった。こういった装備の上級化を考えると割高ではない。

ベーシックなSは256万5000円で、8万5909円値上げされたが、トヨタセーフティセンス(以前のオプション価格は8万6400円)が標準装着されてDCMも加わった。つまり実質的に値下げされている。

この背景には、現行型にフルモデルチェンジした時の値上げもあるだろう。先代プリウスは、ほぼ同時期に先代ホンダ インサイトが低価格で発売され、急遽価格を抑えた。この反動もあって、現行型は先代型に比べると装備差を補正して9~10万円値上げして発売されたからだ。ここで生じた割高感を、マイナーチェンジで解消したとも受け取られる。

トヨタ プリウス(2018年マイナーチェンジモデル) グレード:A “ツーリングセレクション”(2WD)/ボディカラー:ブルーメタリック

現行プリウスは、先代型に比べるとプラットフォームを刷新して走行安定性と乗り心地を大幅に向上させたが、デザインや価格では失敗もあった。そこを修正したのが先ごろのマイナーチェンジだ。フロントマスクの変更はいまひとつだが、内装の質、操舵感、走行安定性、安全装備などが幅広く向上している。価格も少し割安になり、選ぶ価値を高めた。

[筆者:渡辺 陽一郎/撮影:小林 岳夫]

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