自動車メーカーがIT大手に屈する日?
2019年2月5日、日本経済新聞や共同通信などが、「日産・ルノー・三菱アライアンスが、米グーグル(親会社:アルファベット)と自動運転に関して提携することが分かった」と報じた。
これを受けて、自動車産業界の一部からは「ついに、自動車メーカーがITジャイアンツの下請けになるのか!?」という悲鳴も聞こえ始めている。
本当にそうなってしまうのか?
携帯電話が、i-Phoneとアンドロイドフォンに占有され、日系電気メーカー各社が撤退したように、近い将来、グーグルやアップルが自動車産業を牛耳る時代が来るのか?
自動運転をきっかけに、自動車産業の業界図式は一変するのか?
自動運転技術のキーファクターは何か?
今回の報道を受けて、日産、三菱以外の自動車メーカー関係者は「どこまでグーグルに頼るのか?」という疑問を持っているようだ。
高度な自動運転技術を実現するには、様々な領域で大幅な技術革新が必要である。
例えば、自車によるセンサリング。カメラ、ミリ波レーダー、赤外線レーダー、そしてレーザーレーダー(通称ライダー)など、各種のセンサーを装着して、周囲の環境を把握する。ここでは、カメラでの画像認識技術の重要度が高い。この分野は、半導体メーカーが主役であり、米エヌビディア、そしてイスラエルのモービルアイを買収した米インテルの存在感が大きく、グーグルとしての独自性はさほど高くない印象だ。
次に、高精度な三次元地図。一般的なカーナビ用の地図ではカバーされていない、道路の起伏や車線などの詳細な道路情報を、計測車両が定期的に循環することで精度が高い三次元地図を構築する。こうした地図空間の中を、上記のセンサリングして走行することで、「差分(さぶん)」を検出する。「差分」は落下物や事故車両など、道路上の障害物である可能性もある。
高精度地図については、ダイムラー・BMW・VWグループ、さらに米インテルが出資する独Here(ヒア)が世界最大手。日本では自動車メーカー各社などが共同して企画・策定するダイナミックマップがあり、ヒアとも連携している。この他、地図大手ではオランダのTomTom (トムトム) がi-Phone用の地図を供給しており、自動車部品大手などとの連携を深めている。そして、グーグルについては、グーグルマップを自動運転用にどのように連携させるのかは、現時点では公開されていない状況だ。
グーグルの強みはコネクテッドカー
では、日産アライアンスがグーグルと組むメリットはどこにあるのか?
まずは、グーグルからスピンアウトしたWaymo(ウェイモ)の知見を得ることだ。WaymoはFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)、英ジャガー、そしてホンダと、レベル4の自動運転技術について連携している。
日産アライアンスとしても、レベル2、またはレベル3までの自動運転技術についてはこれまで蓄積してきた自車技術を活かし、レベル4以上ではウェイモとの共同開発によって量産時期を早める計画かもしれない。
もう1点、日産アライアンスとグーグルとのつながりについて、注目されることがある。2018年9月に発表された、車載器のOS(オペレーティングシステム)でグーグルのアンドロイド利用による合意だ。いわゆる、コネクテッドカーの領域である。これは高度な自動運転を量産化する上で最重要技術のひとつだ。実はホンダも、車載OSのアンドロイド化に積極的だ。
今回の日産アライアンスとグーグルの自動運転における連携は、車載OSを含めた自動車データビジネスのグーグルによるデファクトスダンダード(事実上の標準化)を手助けするように思える。
自動車産業とITジャイアンツ、パワーゲームの結末はいかに。
[筆者:桃田 健史]