市民の力で

 馬上で曲芸をする朝鮮人を日本人画家が写生した絵図、日本人の求めに応じて朝鮮人画家が描いた山水画…。長崎歴史文化博物館で開催中の「世界の記憶 朝鮮通信使」展からは、日本と朝鮮の人々の交流の息遣いが伝わる▲朝鮮通信使は、朝鮮王朝が江戸幕府に派遣した外交使節団。豊臣秀吉の侵略で途絶した国交を回復するために始まり、両国の平和的関係の象徴となった▲通信使に関する記録は2017年、人類にとって普遍的な価値があると認められ、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶(世界記憶遺産)」に登録された。日韓の民間団体の共同申請が実った▲その意義とは裏腹に、現在の日韓の政治的関係は最悪といわれる。韓国最高裁が日本企業に下した元徴用工への賠償命令や、韓国軍による自衛隊機へのレーダー照射などの問題が横たわる▲ユネスコへ申請したのがもし政府だったなら、そんな政治的問題に翻弄(ほんろう)されて頓挫していたかもしれない。登録に尽力した歴史学者の仲尾宏さんは、先日の講演でそう語った。登録実現は市民の力だったと▲昨年の日韓両国の往来者数が初めて1千万人を突破した。民間交流の規模は拡大する一方だ。明るい日韓関係を切り開くには、市民レベルで関係を築くことが一層大事になっていきそうだ。(泉)

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